2005-01-01から1年間の記事一覧

サハリン消息/眼鏡の呪い

うちの教員室が、どれだけ世界の縮図になっているかは知りませんけどね。日本人教師はほとんどが眼鏡をかけています。5人中4人。かけてないのは1人だけ。もう1人してないのがいますが、彼はサハリンの生まれで、ここで大学も出たという、日本語が母語と…

サハリン消息/珈琲頌

日本女性は一致結束してコーヒーに砂糖を入れないことに決めているようで、ルーマニアやロシアなどで彼女たちの案内をしていると、喫茶店で困ってしまうことがあります。安い店など、問答無用、最初から砂糖がどっさり放り込んでありますからね。入れないで…

サハリン消息/教師会会報

3月に新しく組織されたサハリン日本語教師会が、会報第1号を出しました。 それは結構なこと、と聞こえます。誤って感心してくれる方も中にはいるかもしれませんが、ご無用、ご無用。だって全然実体が伴っていないのだものね。だから旗を立てなきゃならない…

サハリン消息/雪の民主主義

疲れというのは、適度であれば心地よいものです。外が寒いほど暖かい布団にくるまってよく眠れます。そして目が覚めると、外の景色が一変している。魔法、というものを私は信じているフシがありますが、見たことはありません。雪はだが、それに近いものでは…

サハリン消息/マークシート

12月4日(日)、日本語能力試験の模擬試験を、本試験と同じ日に、本試験と同じ形式でやりました。本試験と同じということは、四者択一の設問の答えをマークシート方式の解答用紙に記入する、ということです。マークシートなんてここの学生は知らないから…

サハリン消息/教材申請

国際交流基金へのさまざまな助成申請は、年中行事のようなもの。今年も教材申請のために目録を繰ります。 申請書に書き込みながら、つと立ち止まって(立ち止まるのが好きなのです)、しばし考えます。なんと多くの書物や道具に取り囲まれて仕事をせねばなら…

東欧の降誕祭劇

「元日から一月六日の主顕節にかけてのあいだのことである。 当年十四歳の少年クラバートは、おなじヴェンド人のふたりの少年といっしょに門付けをして歩いていた。ザクセン選帝侯国の君主である選帝侯殿下は国内で物乞いをしたり浮浪生活をしたりすることを…

サハリン消息/CIS日本語弁論大会

今はどうか知らないが、私がいたころのブダペストの地下鉄はスリが多くて、日本人で被害にあう人も何人もいました。私はずっとやられていなかったが、日本に帰る直前に、パスポートと航空券をすられました。財布は無事でした。しかしパスポートを取られたの…

サハリン消息/犬の風景

寅さんがうちの町でロケした映画が、このあいだNHK・BS2で放映されました。当時映画館で見て以来、久しぶりの再見です。70年代初期(1973年?)の製作ですから、もう30年以上も昔です。寅さんやさくらが降りてくる駅のホームに蒸気機関車が止ま…

サハリン消息/紅葉

ユジノサハリンスクの初雪は10月25日でした。だからもう季節は終わってしまったのですが、サハリンの紅葉はなかなかのものでした。しかしそれを愛でる期間は短かった。まったく気づかずにいたのです。10月12日に赴任先の大学を会場に「ロシア極東・…

サハリン消息/冬、時間の復帰

10月30日、夏時間から冬時間、つまり本来の時間に移行しました。サハリンは北海道の真上にあって、経度がまったく違わないのに、これまで2時間も時差がありました。それが1時間になった。たかが1時間ですが、やはりありがたい。ここに暮らしていても…

サハリン消息/子供好きじゃないと日本語教師は勤まらない?

子供好きでない人が小学校の先生をしているとは思えません。しかし大学の先生ともなると、子供が好きでも嫌いでも関係ないじゃないか。そうなんですけどね。旧ソ連ではこのへんの事情がちょっと違います。 ここでは教師は女性が多く、語学教師となればほとん…

サハリン消息/ホテルの宣伝ではなくて

われわれ西の方の人間にとっては、北海道は遠い。昔一度だけ行ったことがあります。舞鶴からフェリーで小樽へ行き、苫小牧から仙台へやはり船で渡りました。北大のポプラ並木を見たこと、まだ深名線があった頃で、それに乗ったこと、町が碁盤目の通りででき…

サハリン消息/「サーシャ」の影

着いたら、まず在留届を出しに行く。公的派遣であれば当然です。そのとき総領事館の人から安全上の注意を受けます。 フランス人がメッタ刺しにされて殺されただの、事例をいくつか聞きましたが、日本人が被害に遭った例として、夜、ドアをうるさく叩きながら…

サハリン消息/腰の軽い人たち

先日、ロシア極東・東シベリア日本語弁論大会がここユジノサハリンスクで開かれました。ウラジオストク・ハバロフスク・ユジノサハリンスクの総領事館のある3都市持ち回りで行なわれている大会で、今年はサハリンの番だったのです。 この地域に日本から公的…

サハリン消息/黒板消し

サハリンに赴任してまず最初の驚きは、「教室に黒板消しがある!」ということでした。ふつうボロぎれですよ、字を消すのは。ウズベキスタンにいたとき、ウズベク語の勉強にと独習書を買い、付録のウズ英対訳単語帳で第1課の語彙を調べていたら、見慣れぬ英…

タタールの民話(3)

「ウブル・タズ」(26) むかし三人の兄弟がいた。二人は賢かったが、三番目は愚かだった。その弟はウブル・タズ(お化けの禿公)といった。ウブル・タズは何をやってもやり通すことができなかった。兄さんたちは言った。「おい、ウブル・タズ、突っ立って…

タタールの民話(2)

「シュラレ」(15) 昔ある男が森で木を切っていた。そのそばにシュラレ(森の精)がやってきた。男は一心に木を切っていた。シュラレは男に、「名前は何てんだ?」と聞いた。男は、「俺の名はキョネンだ」と答えた。シュラレは、「くすぐりっこをしようじ…

タタールの民話(1)

バーリント・ガーボル 司馬遼太郎言うところの「巨眼の学者」大林太良教授が監修し解説を書いたG・クライトナー「東洋紀行」(全3巻、小谷裕幸・森田明訳、平凡社[東洋文庫]、1992−3)は、1877−80年という比較的早い時期に行なわれたハンガリ…

ジプシーの昔話と伝説(13)

63.短いお話 昔一人の男がいて、男は牡牛に犂をつなぎ、牡牛に犂をつなぎおえると、それを畑に牽いて出て、それで畑を耕した。すると畑で箱を見つけたが、それには鉄の蓋がしてあった。畑で見つけた箱の鉄の蓋を開けると、そこから兎が畑に跳び出し、そい…

ジプシーの昔話と伝説(12)

61.ライネケ親方はどのようにして女房を手に入れたか*) 狐の親方は狐の仲間にひどく受けが悪かった。仲間たちは、親方が森や野原で、家や庭でやってのけたという驚くべき事柄のあれこれを語り合っていた。踊りの庭ではいつも最初にやってきて、いつも最…

ジプシーの昔話と伝説(11)

60.狼と狐*) 狼と狐が友だちになり、二匹はいっしょに獲物をさがしに出た。狐は狼より狡くて賢かったので、決して成し遂げたことのない勲しをやたら自慢している狼よりも、いつも大きな獲物を捕まえた。(狐の)ライネケ**)の抜け目なさと分別のおか…

ジプシーの昔話と伝説(10)

59.狐と狼が魚を捕りにいく あるとき狐と狼が友だちになり、いっしょに魚を捕りに出かけた。冬のあるとき川のほとりへ行き、物陰に横になった。狼は疲れてすぐに眠りこんでしまったが、狐は川の氷に穴を穿って魚を捕っている漁師に気づいた。狐はこっそり…

ジプシーの昔話と伝説(9)

58.年寄りと狼 ずっと山の上の小さな小屋に、一人の年取った男が孫の四人の小さな子供と暮らしていた。孫たちをとても可愛がり、よく世話をしてやっていた。村へ食べ物を買いにいくときには、孫たちにこう言いきかせた。「いいか、誰かが戸口に来たときは…

ジプシーの昔話と伝説(8)

57.蟹と蛭と蛙 蟹と蛭は長いこと小川の中でともに和やかに暮らしていた。いっしょに獲物をとりにいき、お互い喜びも苦しみも分け合っていた。あるとき蛙に、自分のところで楽しい一日を過ごそうじゃないかと招かれた。時間どおりに蛙の住まいに現われて、…

ジプシーの昔話と伝説(7)

56.学校へ行った蝿 昔一匹の蝿がいて、学校の先生の住まいに迷いこみ、子供たちが歌を習っているのを長いこと聞いていた。歌はこのように始まった。 「ズン、ズン、ズン、 驢馬はまったく馬鹿な奴!」 蝿もすぐにこれを覚え、ひそかにこう思った。「さあ…

ジプシーの昔話と伝説(6)

52.王様と鼠*) 何年も何年も前、ここから遠いところに、豪勢な王様がいたが、自分の民にひどく恐れられていた。というのも怒りっぽく残忍で、退屈して何か楽しみがほしいときにはよく、目の前で何人かの人間の体を鋸で挽かせ、哀れな連中が痛みにのたう…

ジプシーの昔話と伝説(5)

48.女の子と蛇 ある百姓に二人の娘があって、下の子は言うことをよく聞く働き者だったが、上の子は怠け者で言うことを聞かなかった。下の子は朝早くに起きて家事をみていた。母親はとっくに死んでいたから。上の子はやっと昼ごろ寝床から起き上がり、一日…

ジプシーの昔話と伝説(4)

45.あたしを心から愛してくれる人 あるとき四人の姉妹が家の庭に坐っていた。一番上の姉が尋ねた。「いったい誰があたしたちを心から愛しているか、知ってる? 死なんばかりのところから救い出すために、自分の命を投げ出すのは誰?」 二番目の姉はこう答…

ジプシーの昔話と伝説(3)

37.ジプシーと宝物 いつだったか貧乏なジプシーが大きな森に来て、眠ろうと木の下に寝転がった。すると夢の中にいきなり白い装束の女が現われて、こう言った。「お前は貧乏なジプシーだね、金持ちにしてあげよう。森の奥深く入っていきなさい、川のほとり…