ジプシーの昔話と伝説(12)

      61.ライネケ親方はどのようにして女房を手に入れたか*)


 狐の親方は狐の仲間にひどく受けが悪かった。仲間たちは、親方が森や野原で、家や庭でやってのけたという驚くべき事柄のあれこれを語り合っていた。踊りの庭ではいつも最初にやってきて、いつも最後まで残っていたが、とりわけ狐どもの一番の祭りである新年の夜は親方の一番の働きどころで、老いも若きも、大人にも子供にも、男にも女にも、若者にも娘たちにも、とんでもない悪ふざけをしかけ、いたずらする相手が誰かはどうでもよかった。仲間の若い娘たちみんなに永遠の愛と誠を誓い、最後にはみな見捨てたり、生きるの死ぬのと女房どもといちゃついたりしていたので、しまいに男たちは、奴の悪さをまぬがれるために、その地を去ってもっと静かな場所をさがそうと決めた。月の明るい夜にその地から出ていって、親方はじきに、自分がその土地のただ一人の主であるとわかったが、仲間たちに置き去りにされ、一人さびしく生きていかねばならないことも知った。
 けれどまもなく、山の上のみすぼらしい穴に住んでいるいとこの狼とその若い女房をお客に招こう、狼の女房の輝く眼や愛らしい口元やほっそりした体つきが、自分の仲間の女たちすべての愛を埋め合わせてくれるだろうと考えて、自らを慰めた。いとこの狼がひどい嫉妬やきで、若く可愛い女房を夜も昼も見張っていることをよく知ってはいたけれど、時がたてばいい考えも浮かぶ――そう考えて、楽しげに口笛を吹きながら、狼どんと女房が縄張りにしている山へすたすた駆け登っていった。狼の穴に着くと、戸を叩いた。女の声が、「誰なの?」と尋ねた。「俺だよ、狼の奥さん、いとこの狐だよ」と狐は言った。「あら、おいとこさん」と女房は言った。「入れてあげたいのはやまやまだけど、亭主が自分の知らない間に誰ももてなしちゃならんと厳しく言いつけたのよ」。狐は答えて言った。「奥さん、安心して戸をお開けなさい。あんたのご主人、俺のいとこはこれっぽっちも怒りゃしないさ、たとえ俺たちが何時間もふざけ合って、キスをし、抱き合っていたとしてもね! あんたたち二人にとてもうれしい知らせを持ってきたんだから!」 女房は扉の後ろで笑い、こう考えた。まあまあ! 戸を開けてやろう! 亭主はあの狐を高く買っているし、あれのためにあたしを叩き散らしたりはしないだろう、あたしも気をつけて狐とふざけたりしないわ!――
 女房は扉を開けて、親方は楽しそうに部屋の中に飛び込んだ。まもなく二人は暖炉の陰の長椅子に腰掛け、抱き合ってキスをした。そこへ狼どんが、気づかれずに静かに穴へ忍び入り、戸が開いているのを見、女房が見知らぬ男と抱き合ってキスしているのを見て、棍棒をつかんで抱き合っている二人に襲いかかった。驚いてふたりはぱっと離れたが、狐はすぐに一時失った分別をとりもどし、怒り狂った狼の前に立ち上がって、悲しげな顔つきでこう言った。「やあ、相棒、気はたしかかい? なんでそう荒れ狂って、自分の病気の女房を罵るんだ? 俺はお前さんたちに大事なことを伝えに来て、戸が閉まっているのを見たんだ。それで先へ行って、熊の伯父貴にうれしい知らせを伝えようと思ったんだが、――そのときお前さんの女房が嘆き悲しむ声を聞いた。急ぎ立ちもどり、長々と頼んだあとで、奥さんは中に入れてくれた。お前さんの女房はな、相棒、恐ろしく歯が痛むんで、歯を一本抜いて、新しい歯を入れなきゃならん、さもないと日暮れまでに死んでしまうんだ。俺はちょうど、俺の歯のどれかが、抜き取る歯の場所に合わないか見ようとしてたんだよ。だが俺の歯は残念ながら小さすぎて、奥さんの歯並びにはとても合わない」。すると感じ入って狼は言った。「許してくれ、相棒! お前たちが隅っこで何をしているのか知らなかったし、お前が誰なのかもわからなかった!」 なおも話し続けようとしたが、親方はそれをさえぎって、こう言った。「やめろよ、おい! どうしたらお前さんの女房を助けられるかを考えよう。もうじき夕方だ、急いで助けなきゃ、奥さんは死んじまうんだから!」
 すると女房をとても愛していた狼どんは、大声で泣き叫びだし、よきカトリック信者として急いで三度あたふた十字を切って。こう言った。「おい、助けてくれ! 生きてる間お前の面倒見るから! 俺の獲物のいちばんうまいところをお前にやる! お前はこれからはただ食べて飲んで煙草を吸って、日なたに横になってりゃいい! ただ女房を助けてやってくれ!」 こんなふうに狼が悲嘆にくれる一方で、女房は隅のほうでこっそり笑っていた。「俺はただこうしてあげられるだけだ」と、しばらくしてから狐は言った。「痛む歯を抜き取って、お前さんの歯を代わりに入れるんだ」。すると狼は、「そしたらお前は俺の歯を一本抜かなきゃならんてのか、もし歯が一本欠けちまったら、俺はどうしたらいいんだ? どうやって食い物を捕まえるんだ?」と嘆いた。応じて狐はこう答えた。「だがな、相棒、他にはどうしようもないんだ、それか、これかだよ! じきに夕暮れだ! よく考えるんだな! お前さんたち二人を俺の小屋に引き取ってやろう、食べ物や飲み物には事欠かないだろうよ、俺の親戚はみな外の土地へ移っていって、今や俺が縄張りのただ一人の主だからな。そしたらいつかあとでお前さんに歯を入れてやることもできるかもしれん!」 狼どんはやっと何とか承知して、いちばんいい、いちばん強い牙を引き抜かせ、狐はそれを持って女房のもとへ駆け寄り、歯を抜いて代わりに亭主の歯を入れたかのようなそぶりをしたが、一方哀れな狼どんは痛さに地面を転がり回っていた。というのも親方は、たしかに歯は一本しか抜かなかったが、ついでに歯並び全部をめちゃくちゃに砕いていたからだ。しまいに狐は前脚を打ち合わせて叫んだ。「さあ、狼の奥さん、死なないでもすみましたよ!」
 その間に夕暮れになっており、みなは横になった。狼どんは一晩中うんうん苦しんでいたが、その一方親方は、はじめは暖炉のそばの長椅子に伏せっていたけれど、すぐに女房のもとに忍び寄り、二人は夜が明けるまで抱き合ってキスしていた。明け方二人は小屋からこっそり外へ出ていって、扉に外から閂をかけ、病気の狼を運命のなすがままにしておいて、狼はじきに飢え死にしたが、一方狐と不実な女房はその日その日を楽しく暮らしたとさ、奴らの皮が毛皮作りの手に落ちるまでな。


*)61話と62話は、これまでに知られていたどんな狐の話にも含まれていない特徴を含んでいる。