ジプシーの昔話と伝説(6)

               52.王様と鼠*)


 何年も何年も前、ここから遠いところに、豪勢な王様がいたが、自分の民にひどく恐れられていた。というのも怒りっぽく残忍で、退屈して何か楽しみがほしいときにはよく、目の前で何人かの人間の体を鋸で挽かせ、哀れな連中が痛みにのたうちまわり、苦しみぬいた末にくたばるのを見ては、ご満悦のありさまあった。
 あるとき王は家の扉の前に座り、どのようにして時をやりすごそうかと考えていると、一人の婆さんがやってきて、王様の前に来ると、施し物を乞うた。だが王は言った。「いい時に来たな! パンが要るのか? ではすぐに粉を挽かせてとらそう!」 そして悪党の家来どもを呼び寄せて、婆さんを捕まえて鋸で挽けと命じた。婆さんは逆らうことなくすべてなされるままにして、家来どもが身の毛もよだつ仕事を終えると、挽き割られた体が起き上がり、世にも美しい女に姿を変えて、宙へ舞い上がって王にこう呼びかけた。「あわれなことよ! お前は惨めな死にざまになるだろう!」 そうして美しい女は掻き消えたが、それはよいウルメで、年取った婆さんも鋸で挽かせるか、年寄りをいくらか敬う気持ちがあるか、悪党の王を試してみようと思ったのだった。
 まもなく悪党の王は生涯を終えることとなった。国に恐ろしく暑い夏が来て、畑の実りも、庭の木々も、野原の草もみな干からびて、冬が来たときには、人々は何も食うものがなかった。そこで人々は王様のところへ行って、食べ物飲み物を求めた。だが王は、パンのことを言う者は誰であれ、鋸で挽かせるぞと脅した。貧しい連中が飢えている一方で、悪い王は楽しく日々を過ごした。というのは別の王様に何百台もの車にいっぱいの麦や酒を持ってこさせ、たっぷり飲んでは食べるものがあったからだ。そこへまた年取った婆さんが王のところへ来て、「パンを一かけおくれなさい、お日さまはもう七回も沈んだのに、あたしゃ何も食べてないんです!」と言った。王様はこう応じた。「よかろう、だがまず粉を挽かせてとらそう!」 そして家来どもを呼び寄せ、婆さんを鋸で挽かせた。すると挽き割られた婆さんの体はまたもよいウルメに変じ、宙へ舞い上がって数え切れぬほど何度も唾を吐いた。唾の一滴一滴が何千匹もの鼠になって、王に襲いかかってきた。王は家の屋根の上に登ったが、そこへも鼠どもは追いかけてきて、その体を最後の毛一本を齧り尽くすまで食い荒らし、そうして消え失せた。すると国には実りの多い夏が来て、人々はそれまでより百倍も豊かな取り入れとなった。人々は新しいよい王様を選び、そのもとでそれからずっと幸せに満ち足りて暮らしたとさ。


*)リープレヒト「民俗学」、1879年(「鼠の塔」)参照。