ジプシーの昔話と伝説(9)

                58.年寄りと狼


 ずっと山の上の小さな小屋に、一人の年取った男が孫の四人の小さな子供と暮らしていた。孫たちをとても可愛がり、よく世話をしてやっていた。村へ食べ物を買いにいくときには、孫たちにこう言いきかせた。「いいか、誰かが戸口に来たときは、何をやろうと約束してきても、開けるんじゃないぞ、狼がやってくるかもしれんからな。もしか戸を開けたら、狼はお前たちをぺろりと食っちまうからな!」――あるとき爺さんはまた村へ行き、すると狼が戸口に来て、呼びかけた。「おいお前たち! 戸を開けてくれ!」 けれど子供たちは黙っていた。戸を開けちゃいけないというお爺さんの言葉を思い出したから。そこで狼は言った。「開けてくれ! お爺さんに頼まれて来たんだよ!」 すると一番上の子供が聞いた。「どうしてお爺さんがお前をよこしたんだい?」 狼はこう答えた。「お前たちにおいしいお菓子をことづけたのさ!」 すると子供たちはもうたまらずに戸を開けて、狼は中に飛び込んで、四人の子供をみんな呑みこんでしまった。狼は、もっと何か食べられるものは見つからないかと部屋の中を眺めまわし、すると火酒の詰まった壜が目にとまった。壜を開けて中身を空けた。するとそこから動くことができないほどすっかり酔っ払って、小屋の中で伸びてしまった。夕方近く爺さんが家に帰ってきて、部屋の真ん中に狼がグウグウいびきをかいて床に転がっているのを見つけた。そこで孫たちに何が起こったのかはすぐに知れた。爺さんはよく切れる鋏を手に取って、狼の腹をジョキジョキ切ると、子供たちが飛び出してきて、爺さんは子供らを物陰に隠した。それから消されていない石灰を取って、それを狼の腹に入れ、開けたところを縫い合わせた。狼は目を覚ますと、喉が渇くので小川に駆けていき、水をごくごくたくさん飲んだ。すると腹の中で石灰が燃えて煮えたぎり、狼は弾けとんで、惨めに一巻の終わりとなったとさ。