ドイツ

ドイツ歳時記

思えばもう三十年以上の昔になる。南独やスイス、オーストリアの田舎を年中行事を調べにせっせと歩きまわっていた頃、茂吉の紀行や19世紀ドイツ作家の文章を道しるべにしていた。彼らやその他の日本人留学生の日記随筆から歳時習俗に関する部分を取りまとめ…

ある湖の話

ずいぶん昔のことなので、記憶がさだかかどうかもわからない。それは大きな海だった。いや、大きくなかったかもしれない。小さかったかもしれないが、大きくもあった。地中海ほどに。いや、地中海より大きくさえあったかもしれないのだけど。そこには水があ…

イェニーの恋(3)

6. 誕生日の当日に届いたすばらしい贈物、それから受けた大きな喜びに対し、さらに一筆することをお許し下さい。私がどんなに驚き、また感動したか、信じていただけないでしょうが、この本のすべてが並外れて美しく意味深いものでした。ご自分では自覚され…

イェニーの恋(2)

4. ようやく貴嬢に、われわれの昔話集へのご助力に対してお礼を申し上げられることとなりました。ご手稿は、大きな喜びとともに、まさに時を得て到着しました。自分の手で本が送れる時まで謝辞を控えていましたが、今やっとそれを果たすことができます。第…

イェニーの恋(1)

ヴィルヘルム・グリム/イェニー・フォン・ドロステ=ヒュルスホフ往復書簡 1. 1813年7月25日のあたたかい思い出のために。 旅人ひとり野道を行く 地の上はいかにも暑く 日は頭に焼きつくよう 深い茂みの森へと急ぐ。 そこではいつも涼しげに 風があ…