ジプシーの昔話と伝説(11)

                60.狼と狐*)


 狼と狐が友だちになり、二匹はいっしょに獲物をさがしに出た。狐は狼より狡くて賢かったので、決して成し遂げたことのない勲しをやたら自慢している狼よりも、いつも大きな獲物を捕まえた。(狐の)ライネケ**)の抜け目なさと分別のおかげで、二匹はいつも上々の獲物と油ののったおやつにありつけたのだが、それが狼にはとても癪にさわることだった。あるときまた獲物を捕りにいき、ひどくぶつかり合った。狼は自分の方が賢いと言い張り、一方狐は狼を馬鹿な奴だと罵った。しまいに狼は怒りに我を忘れてこう叫んだ。「お前の知恵がどれほどのものか言ってみろ!」「俺の知恵がどれほどのものかって?」と狐は答えた。「ふうむ! それは一通りのものさ!」「それ見たか、馬鹿者はお前で、俺じゃない。俺様こそは百通りもの知恵の持ち主だ」。二匹はその間に落とし穴に近づいていたが、それには狐だけが気づいており、狐はそこで前脚で狼の首を抱いて、自分の働いた無礼を詫びるふりをした。するといきなり二匹は落とし穴に転がり落ちた。狼は狐に、「相棒、どうしたらいいだろう? どうすりゃこの穴から抜け出せるんだ?」と言った。「そうだな」と狐は答えた。「そいつはお前さんの方が百通りの知恵で、俺の一通りの知恵よりよくご存知だろうさ」。「また俺をからかおうってんだな!」と狼は言った。「ここではお互い助け合えるさ。いちばん賢い者が愚か者の助けを当てにするのもよくあることだ!」「そんならよかろう、相棒よ」と狐は答えた。「俺に言えるのはこんなことだけだ。お前さんは力が強い、俺の首根っこを捉まえて、穴から放り投げるんだ。それからお前さんは尻尾を穴から差し出して、俺が引っ張り出してやる」。そこで狼は狐の首根っこを捉まえて、穴から放り投げてやり、そうして尻尾を高く差し延ばし、「さあ、相棒、引っ張り出してくれ!」と呼びかけた。さて狐は狼の尻尾をつかみ、長いことグイグイ引っ張り回したので、半分が脚の間に残っているだけになった。そこで狼は嘆いて言った。「俺はどうしたらいいんだ? もう尻尾は穴の縁まで届かない。どうやって出たらいいんだ?」「それは俺よりお前さんの方がよくご存知だ!」と狐は言った。「俺は一通りの知恵で助かったんだから、お前さんも自分の百通りの知恵で何とかするんだな!」 そうして狐は狼を穴の中に残し、楽しそうにすたすた駆けていった。次の日猟師がやってきて、狼を撃ち殺したとさ。


*)J.G.クラウス博士のすぐれた収集「南スラヴの伝説と昔話」(ライプチヒ、フリードリヒ書店。Ⅰ.p.44.「狐と針鼠」)参照。
**)ドイツ語の名前を意図的に用いた。原文には出てこないけれども。
(訳者註)というふうに註して、60−62話で著者はライネケ、イーゼグリムの名を狐と狼に付しているが、なくもがなのことなので、以下本文中では「狐」「狼」とのみ訳した。