ジプシーの昔話と伝説(8)

                57.蟹と蛭と蛙


 蟹と蛭は長いこと小川の中でともに和やかに暮らしていた。いっしょに獲物をとりにいき、お互い喜びも苦しみも分け合っていた。あるとき蛙に、自分のところで楽しい一日を過ごそうじゃないかと招かれた。時間どおりに蛙の住まいに現われて、蛙はいろんな蝿や蚊や蛞蝓の焼いたものでもてなした。みんながもう十分満腹すると、酒を飲みはじめ、互いに自分の冒険や勲しを語った。長いことああだこうだしゃべったあと、しまいに蟹が立ち上がって、大きな声で言った。「俺の話を信じようとはしないだろうが、こういうことだ。俺はお前たちのうちでいちばん美しく、いちばん賢い。人間も獣も俺の鋏を恐れている。たしかに俺はまだ人間と張り合ったことはないが、賭けてもいい、奴が俺の前から逃げ出そうとするだろうと」。「よかろう!」と蛭が言った。「のった! 俺たち三匹のうちで、人間を逃げ出させた者は、人間にやっつけられた者の家をもらうんだ!」 さて、蟹と蛭と蛙は小川に泳ぎ出ていき、待ち伏せをした。まもなく男の子が水浴びに川へ入ってきた。蟹は勇ましく泳いでいって、男の子の足をはさんだ。男の子は蟹を捕まえて篭に入れ、「煮て食ってやろう!」と言った。そこで蛭が泳いでいって、子供の肩にしっかり吸いついた。子供はそれをつかんで、蟹のいる篭に投げ入れ、「こいつは薬屋に売りつけよう」と言った。そこで蛙が男の子の足に飛びかかると、子供はいやらしい生き物を見て一目散に逃げ出した。蟹はまもなく鍋へと移され、グラグラ煮られて食べられた。蛭は薬屋に売られて、それ以来病人の血を吸わねばならなかったが、蛙は小川の中でなおも楽しく暮らしつづけ、運の悪い仲間の土地を自分のものにしたんだとさ。