サハリン消息/珈琲頌

日本女性は一致結束してコーヒーに砂糖を入れないことに決めているようで、ルーマニアやロシアなどで彼女たちの案内をしていると、喫茶店で困ってしまうことがあります。安い店など、問答無用、最初から砂糖がどっさり放り込んでありますからね。入れないでくれと下手な言葉で頼んでも、コーヒーには砂糖をしっかり入れるものとして育ってきているウェイトレスたちには、そもそもそんな注文自体が理解不能で、わかったとは言いながら、出てきたものに口をつけると、やっぱりしこたま入っていたということが一再ならずありました。量を多くしてくれという注文とでも思ったのかしら。
けれど、私はあの馬鹿なウェイトレスたちを決して非難しません(まあ馬鹿なのは実に馬鹿なんですがね)。自分がコーヒーに砂糖を入れる人種だから。
特に今のように寒くなってくると、やかんに湯の沸くシュッシュという音が、暖かい、守られた者の幸福感をやさしく揺り起こします。そして注がれたコーヒーに(別に紅茶だっていいのですが)砂糖を入れて、小さなスプーンで攪き回す。そのスプーンがカップに当たって鳴る澄んだかすかな音は、幸せに音があるなら、そのうちの最も快いもののひとつです。攪拌され、不規則に忙しく揺れるコーヒーの上に、明かりが形を成さずちぎれ踊る。そのコーヒー色の上に揺れる鈍いきらめきにも、誘い込まれるような美しさがある。コーヒーをかきまぜない人には見えない、小さな美しい世界です。そこを通って、どこか遠いところへ行けそうな気がします。
ああ、いいコーヒーが飲みたいな。砂糖入りで。