アルメニア

NYM原則から一歩先へ

日本語にも「第三世界」がある。 「第一世界」は、日本に近い地域だ。日本語ができることが実利になり、習う者も実利が主目的である。文化に興味がある場合、それは現代の大衆文化だ。学習者も多い。だから教材や辞書も一応そろっている。学習者全員にはいき…

ノアのいろいろ大洪水

鼠に悩まされていた町が退治してくれた者にほうびをやると触れ出した。しかし、ふらりとやってきた笛吹き男が笛の音で鼠を誘い出し、川でおぼれさせて駆除してやったのに、約束のほうびを出し惜しみ、怒った男が笛を吹くと今度は町の子どもたちが誘い出され…

デジャ・ヴュ

アルメニアに来る人は、きっとドルマ(葡萄の葉で巻いた一口大のロールキャベツ)をすすめられる。土地の名物料理だというのだが、これはルーマニアで馴染みの料理で、あそこでも自分とこの名物だと言っていた。羊肉のつくねみたいなものもそう。アルメニア…

ドバイ

われわれの赴任では、往路の切符は支給されるが、帰路はされない。アルメニアと日本を結ぶ路線は、ふつうモスクワ経由だ。元はソ連の国内便だから、毎日何本も飛んでいる。しかし、シェレメチェヴォと成田はきらいな空港ナンバー1とナンバー2である。しか…

ローマ字アルメ字優劣論

Ամպել ա, ձուն չի գալի, Շողե՜ր ջան. Սարիցը տուն չի գալի, Շողե՜ր ջան:アルメニアではキリル文字でもラテン文字でもない独特なアルメニア文字を使っていて、この文字をデザインした絨緞や壁掛けのようなみやげ物をよく売っている。おもしろがって買い求める…

アルメニア民謡ふたつ

「いとしいショレル」くもりでも ふりはせぬ ショレル・ジャン 山路から もどらない ショレル・ジャン ゆれるよ ゆらぐよ ショレル・ジャン 小雪がまいだした ショレル・ジャン わが胸は 火ともえる ショレル・ジャン 眠れない いく夜すぎ ショレル・ジャン …

大会の祝辞をそれでも言おう

40人ばかり入るサイズの教室で、7人ほどの学習者がスピーチした。日本人が3人来た。それだけ。これっぽっちの催しを背景に、これから聞きようによってはかなり大仰なことも言いますが、この眺めを頭の片隅に置いて、適当に修正を加えつつ聞いて下さい。 …

春が来た

この3月1日は春の最初の日として記憶されるはずだったのだが。 2時から4時ぐらいの間外出した。よく晴れて暖かく、気持ちのいい日だった。雪は消え、数日前から帽子をかぶるのもやめて、この日からはマフラーもとった。もう最低気温もプラスである。冬の…

「ボス」考

いろいろなところで教えたり、日本語教育機関調査に携わったりして、旧ソ連の地方都市の日本語教育をめぐる環境については心得がある。地方都市のかかえる問題にはだいたいいくつかのパターンがあることがわかった。 そのうちのひとつは、「地方のボス」の存…

蒐書家悲史

アルメニアではそんなに本を買ったわけではないが、それでも買うことは買う。しかもできるだけ安く買う(本に限らず、けっこうこの国物価が高いんです)。 本は好きだが、その業界についてくわしいわけではなく、本の再販制というのが日本の特殊な制度なのか…

寒行としての図書館

着任してから前期が終わるまでの学期中は、何かと気が休まらなくて、ひまな時間があってもなかなか自分の好きなことはできない。授業が終わり、試験期間とそれに続く冬休みになってようやく、じっくり本でも読もうかということになるのだが、ここでは別の難…

山の南

「レモン」の木は花さきくらき林の中に こがね色したる柑子は枝もたわゝにみのり 青く晴れし空よりしづやかに風吹き 「ミルテ」の木はしづかに「ラウレル」の木は高く くもにそびえて立てる国をしるやかなたへ 君とともにゆかまし 「ミニヨン」、アルプスの…

冬の散歩

冬は外を歩きまわるのにいい季節ではないけれど、学期が終わるのがこの時期だからしかたがない。今まで出歩けなかった分をとりかえそうと、晴れた日を選んで郊外をせっせと歩いた。行った先は廃墟ばかり。廃墟なら冬もいいかもしれない。 まず、エレブニ遺跡…

大虐殺から考える

旧聞だが、この秋に日本からある研究者がアルメニアを訪れたとき、頼まれてその調査の手配をした。それは1915年のトルコによるアルメニア人大虐殺に関して、虐殺記念碑・記念館が平和施設となっているのだろうかというテーマのものだった。 ナチスのユダ…

世界最強の通貨?

アルメニア人はモスクワで宿に困らない。親戚の誰か、ことによると家族の誰かがモスクワで働いているからだ。親戚や友人のネットワークが強力な民族にあっては、もちろんそこにこころよく泊めてもらえる。 アルメニア人はディアスポラの民で、世界各国に散ら…

晩秋の日々

このあいだの週末はおもしろかった。 招待券をもらって、土曜日の夕方、エレヴァンに来て初めてオペラ劇場に行ったのだけど、そこで私が見たものとは? 柔道のトーナメント。何でまたオペラ座で?というあなたの疑問はもっともだ。私も何度も確認した。日本…

水槽のあるわが住まい

アルメニアに着いて、空港から連れて行かれたのは前任者の住んでいたアパートだった。地下鉄の終点から歩いて10分ほどというのは、エレヴァン基準で便利なのか不便なのかよくわからない。もっと不便なところもあるだろうし。だが、部屋が北向きで、陽がま…

入賞始末

先日、エレヴァン人文大学の学生がモスクワのCIS弁論大会で6位入賞したのを祝って、日本センターの教師がパーティを開いてくれ、エレヴァンの日本語教育関係者や在住日本人のほとんどが集まった。よその機関の学生なのに、ありがたいことである。 日本セ…

自由で独立した弁論へのアルメニアの遠い道のり

先日モスクワで行なわれたCCIS日本語弁論大会で、エレヴァン人文大学の学生が6位に入賞した。アルメニアから初の入賞である。自分が指導した学生がいい成績を得て、喜ばない教師はいない。だが、その喜びとは別のところで。 日本語教育において、旧ソ連…