タタールの民話(2)

「シュラレ」(15)

 昔ある男が森で木を切っていた。そのそばにシュラレ(森の精)がやってきた。男は一心に木を切っていた。シュラレは男に、「名前は何てんだ?」と聞いた。男は、「俺の名はキョネンだ」と答えた。シュラレは、「くすぐりっこをしようじゃないか」と言った。男は言った。「よかろう。だがその前にこの丸太を割らなきゃならん」。男は斧を丸太に打ち込み、丸太は少し割れた。そうしてシュラレにこう言った。「次に打ち込むまで、指を入れて支えておいてくれ」。シュラレが指を差し込むと、男は斧を抜き取って逃げていった。逃げていくのを見て、シュラレは叫んだ。「悪党め、キョネンがおいらの指をつぶしやがった!」 するとそいつのもとに他のシュラレどもがやってきて、こう聞いた。「誰 がおまえの指をつぶしたんだって?」 そいつは答えた。「キョネンだ」。連中は言った。「今年やりやがったんなら見つけられもしようが、去年やったんなら、どこで見つけられるかい?」「なんで去年のうちに言わなかったんだ?」 やられたシュラレは痛さで一言も言えなかった。そいつは今も指をはさんだ丸太を背中にしょって歩き回ってるってことさ。