ジプシーの昔話と伝説(3)

               37.ジプシーと宝物


 いつだったか貧乏なジプシーが大きな森に来て、眠ろうと木の下に寝転がった。すると夢の中にいきなり白い装束の女が現われて、こう言った。「お前は貧乏なジプシーだね、金持ちにしてあげよう。森の奥深く入っていきなさい、川のほとりで裸の女に出会うでしょう。この女が、どこでどうすれば金持ちになれるか言ってくれるよ」。
 ジプシーは目覚めると、森の奥深く入っていき、川の岸で裸の女に出会った。「よく来たわね」と女は言った。「もう長いことあんたを待ってたのよ。この川に沿って源まで行きなさい、そこには木が立っていて、その木の下には宝物が埋まってる。それはあんたのものよ。だけど――木の下を掘ってる間、目を閉じて、叫び声が聞こえるまで開けてはいけません」。そう言って女は消え失せ、ジプシーは川に沿って、大きな木の立っているその源まで行った。男は目を閉じて木の下を掘りはじめた。するとまるで冷たい蛇が体を這いのぼり、唇を吸っているような感じがした。けれど目を開けずに、せっせと掘り続けた。すると手足全部に痛みを覚え、まるで煮え立った湯をかけられたような感じがした。男はなお掘り続け、しばらくすると手足が震え、歯の根が合わなくなるほどひどく凍えた。目が激しく焼かれ刺されるような感じを覚えたが、それでも目を開けず、なおもせっせと掘り続けた。するとすぐ近くで世にも美しい歌声が聞こえ、柔かい腕が首にからみつき、暖かい唇が口づけしてきた。こんな声がした。「あんたは役目を果たしたわ、宝はあんたのものよ。さあおいで、あたしの腕の中でお休みなさい!」 あわや目を開けてしまうところだったが、いい時に裸の女の言葉が頭に浮かび、さらに掘り続けた。そうすると足の下の地面が上がったり下がったりしはじめた。もうほとんどまっすぐ立っておられず、酔っ払ったみたいにフラフラした。しばらくして誰かに頭をひどくぶん殴られ、地面に倒れた。叫び声が聞こえて、ジプシーが目を開けると、数えきれないほどの篭いっぱいの金のそばに、世にも美しい娘が坐っているのが見え、娘は微笑みかけながらこう言った。「あんたはあたしを救ってくれました。何年も前、あたしはここに住んでいたの、そのころここにはきれいな家が立っていて、――そこで兄さんといっしょに幸せに満ち足りてね。そのうち兄はある女が好きになったんだけど、それは他の男の妻だった。兄さんはその男を殺し、女を家に連れ帰った。この宝物はその女のものだったの。だけど二人は長くは幸せに過ごせなかったわ、金の山が兄を無慈悲な自惚れ屋にしてしまったから。女は兄を殺してから自分も命を断ち、それとともに金に呪いをかけ、あたしを大きな木に変えたの。その下をあんたがさっきまで掘っていたあの木に」。
 そこでジプシーはあたりを見回して、木がなくなっているのに気がついた。男は町から車を持ってきて、宝を積んで美しい乙女といっしょに家に帰り、そこで結婚をして、幸せに満ち足りて安らかな終わりの時まで暮らしたとさ。