2005-07-01から1ヶ月間の記事一覧

タタール伝説

韃靼、ないしタタールという言葉には、聞く者のイメージを強く刺激する異様な力がある。美しくは、たとえば司馬遼太郎の、「私は、こどものころから、「韃靼」ということばがすきであった。・・・銀色にかがやきつつ、夏の白雲のように大きくふくらんでゆく…

ハーメルンの子供たち

阿部謹也氏の「ハーメルンの笛吹き男」(平凡社、1974)は名著だ。異国の古文書館で地方の古い史料を調べるという、学問的ながら単調な仕事をしているとき、ふと目にとびこんできた鼠捕り男の文字に想像力を刺激され、遠くへと思いを伸ばして史料室に立…

始原の風景

伝説は、すぐれて「起源の物語」である。「歴史」の語を使うなら、口承の歴史と言っていい。しかしそれは書かれた歴史、「歴史学者の歴史」とは全く異なる。「信じられた歴史」なのである。それはさまざまな出来事を語り、そして「歴史」の当然の任務として…

トランシルヴァニアの虹と銀河

大林太良教授の「銀河の道 虹の架け橋」はたいへん面白い。索引まで入れれば800ページを超すこの大部の書の中で、天に描かれる忘れがたく美しい二つの表象、虹と銀河をめぐる人々の観念を、世界五大陸三大洋の隅々まで、調べがつくかぎり多くの民族の伝承…

吸血鬼の里?

トランシルヴァニアの問題児、ドラキュラ。トランシルヴァニアの人々は、彼を前にして困惑を隠せない。トランシルヴァニアでいちばん有名な人物なのは争いがたい事実なのだが(とりわけアメリカ・西欧において)、吸血鬼ときている。しかし彼はフィクション…

聖地ショムヨー

ブラショヴからセーケイ地方へわけいる列車に乗ると、チークセレダ(ルーマニア語名ミエルクレア・チウク)を過ぎたあたりで、右手に形のよい山が見えてくる。これがセーケイ人たちの聖地、ショムヨーの山だ。セーケイ人というのは、カルパチア山脈がハンガ…

クルージュ近郊とトゥルグ・ムレシュ

<カロタ地方の村々> クルージュから西、フエディンとの間の地域をカロタ地方といい、彩り豊かなフォークロアで名高い。民謡、舞踊、民俗衣装、刺繍やビーズ細工などの手芸・工芸品等々、すべてこみいった技の巧みさが特徴だ。踊り、特に若者がソロで踊るレ…

クルージュの迷い方

<歴史> 「歴史の恐怖」を説くエリアーデではないが、東欧の歴史を語るのはかなり面倒で憂鬱なのですね。屈折多く、立場によって叙述が変わるし。トランシルヴァニアはそんな歴史の「東欧性」の強い地域で、たぶんあの不幸なボスニアを横において眺めると、…

クローンシュタット

クローンシュタット。澄んだ響き、輪郭のくっきりした感じ。きれいな名前だ。なぜ地図のこんなところにドイツ風の名前の都市があるのだろう? ロシア革命時に「クローンシュタットの反乱」なるものがあったが、あれは? ひどい地理的混乱に眩暈をおぼえそう…

ヘルマンシュタット

この国を訪れたら、街角で耳をすませてみよう。トランシルヴァニアの町には、それぞれ異なる音色がある。三つの異なる言葉を話す三つの異なる民族が、一緒に暮らしているからだ。地域によって町によって、その三つの民族の割合が異なる。三つとは、ルーマニ…

カザンへ、カザンから(2)

<学生ヴォロージャ> ソ連建国の父ウラジーミル・イリイチ・レーニン(1870−1924)と、その父イリヤ・ニコラエヴィチ・ウリヤーノフ(1831−86)は、ヴォルガの子であった。イリヤ・ニコラエヴィチはヴォルガ河口のアストラハンに、農奴出身の…

カザンへ、カザンから(1)

「タタールの都」といっても、カラコルムやザナドゥのことではない。これから訪ねようとしているのは、ヴォルガのほとり、モスクワの東約900キロのところ、モスクワとウラル山脈のちょうど中程あたりにある人口百万ばかりの町、ロシア連邦タタールスタン…

アンケートで見るロシア地方大学日本語コースの学生たち

たとえばルーマニアのような国をとってみれば、そんな遠い国のことなんか普通の日本人はほとんど知らない。それは仕方がない。けれどロシアは、隣国の大国だから、いろいろ知っているつもりでいる。しかしはたと考えてみると、ソ連時代は鎖国のようなものだ…

フェルガナだより(0)

<まえがき> ウズベキスタンをご存知ですか? 旧ソ連中央アジアの民族共和国の一つで、ソ連崩壊に伴って独立した国です。「二重陸封国家」と呼ばれます。つまり国境を接するカザフスタン・キルギス・アフガニスタン・トゥルクメニスタン(スタンばっかりだ…

フェルガナだより(12)

前号で暑い暑いとこぼした直後、夏のウズベキスタンには珍しい雨の日が続き、涼しくなりました。日本では、雨が降ろうが曇ろうが、暑い日は暑い、どうかすると晴れた日より曇りのほうが暑かったりしますが、大陸は単純明快。熱源は太陽、それが隠れる日は涼…

フェルガナだより(11)

連日40度前後、アパート内の室温も30度を超えています。暑い。それはもう非常に暑いのだけれど、湿気が少ないので、日本の夏よりずっと過しやすい。5度以上楽な気がします。最低気温25度以上はいわゆる熱帯夜で、寝苦しいったらない。もうじき帰る故…

フェルガナだより(10)

<杜の都> フェルガナはおもしろい町で、公園が町の中心です。中心部にぽっかり空いた緑の空間を囲繞して、バザール、デパート、博物館、劇場、中央郵便局、スタジアム、そしてわれらが大学などが散らばっています。放射状に走る道の要の部分、州政府や市庁…

フェルガナだより(9)

2月3月の頃から始まった当国日本語業界の弁論大会の季節も、あと5月15日の学習発表会(年少者弁論大会)を残すのみとなりました。4月17日のフェルガナ・リシタン大会の1週間後、24日の中央アジア大会では、ドンヨル君がウズベキスタン大会の5位…

フェルガナだより(8)

3月29日は、やや曇りがちでした。朝、右腕の手術を受けて入院中のガニシェル氏の長男ハビビロ君を見舞い、昼には大学の国際部長アザム氏とフェルガナ弁論大会の打ち合わせをしたあと、そのとき歌おうと思っているウズベク民謡ドイラの歌を訳し、午後の授…

フェルガナだより(7)

2月の後半から、もう春だと思わせる天気がしばしばでしたが、3月になって、いよいよ春の訪れを感じます。冬の重い革のコートをいつ脱ごうか、もう学生たちは大半が脱ぎ捨てているが、また寒くなることもあるかしらんと、衣更えの時期をさぐってぐずぐずす…

フェルガナだより(6)

もう二月。まだ春分まで1か月半あるのですが、日は確実に長くなってきました。大学からの帰り道、この間まで真っ暗だったはずの時間に、紅い夕陽が木々の間にかかっているのを見ました。今日は驚くような快晴だったからなあ。道は広く建物は低いフェルガナ…