タタールの民話(3)

「ウブル・タズ」(26)

 むかし三人の兄弟がいた。二人は賢かったが、三番目は愚かだった。その弟はウブル・タズ(お化けの禿公)といった。ウブル・タズは何をやってもやり通すことができなかった。兄さんたちは言った。「おい、ウブル・タズ、突っ立ってないで、森に罠をしかけてきな」。ウブル・タズは罠をしかけた。次の日行って見ると、とても大きな熊が罠に引っ掛かっていた。ウブル・タズは熊を放してやって、家に帰った。家に帰ると、兄さんたちが聞いた。「罠に何が引っ掛かってたい?」 ウブル・タズは言った。「坊さんの黒い牛がかかってたよ」。その次の日、ウブル・タズはまた罠の様子を見に出かけた。そこにはとても大きな狼が引っ掛かっていた。ウブル・タズは狼を放してやり、家に帰った。もどってくると、兄さんたちが聞いた。「罠に何が引っ掛かってたい?」 またもやこう答えた。「坊さんの二歳の雌牛がかかってたよ」。三日目にウブル・タズはまた罠の様子を見に行った。罠には狐が引っ掛かっていた。狐を放してやって、家に帰った。兄さんたちはまた聞いた。「何が引っ掛かってた?」 ウブル・タズいわく、「坊さんの赤い子牛だよ」。四日目には兎がかかっていた。ウブル・タズはそれも放してやって、家に帰った。兄さんたちが聞いた。「何がかかってた?」「坊さんの犬がかかってた」。いつもいつも坊さんの飼っているものがかかったと言うので、兄さんたちは怒って、こう命じた。「今度行ったら、何でもかかってたものをうちに持って帰るんだ!」 そうして罠へ向かわせた。ウブ ル・タズは出かけた。罠にはシュラレが引っ掛かっていた。ウブル・タズはシュラレを捕まえて、家に帰ろうとした。シュラレは頼んだ。「お願いだから逃がしておくれ、そうしてくれたら宝をどっさりやるからさ」。ウブル・タズが放してやると、シュラレはお客に招いてくれた。ウブル・タズが家にもどると、兄さんたちが聞いた。「罠に何が引っ掛かってたい?」 ウブル・タズは言った。「シュラレがかかってたよ。そいつはおいらを金持 ちにしてやると言ったよ。あしたお客に招いてくれたんだ」。次の日、ウブル・タズはシュラレのお客になりに出かけて行った。着くと、シュラレはたっぷりご馳走してくれた。
 帰るときになって、シュラレはとても大きなロシア風の袋に金を入れて持たせ、また次の日も来るように招いてくれた。ウブル・タズが家に帰ると、袋を梁に引っ掛けて、外へ出かけた。もどってくるまでに、兄嫁たちが袋にあった金をそっくり取り出して、隠してしまった。次の日、ウブル・タズはまたシュラレのところに行った。シュラレはまたロシア風の袋をくれた。そして言った。「家に着くまで、開けて中を見ちゃいけないぜ!」 帰り道、ウブル・タズは袋を開けて中を見た。中から九本の棍棒が出てきて、ウブル・タズをこっぴどく叩きはじめた。ウブル・タズは叫んだ。「袋よ、閉まれ!」 棍棒は袋に 入り、袋は閉まった。家に帰ると、ウブル・タズは袋を長い腰掛けに置いて、外へ出た。兄嫁たちが袋を開けて中を見たら、九本の棍棒が出て殴りかかってきた。しばらくしてウブル・タズがもどってくると、女たちはウブル・タズに言った。「棍棒をしまっておくれ、あんたのお金を返すからさ!」 ウブル・タズは叫んだ。「袋よ、閉まれ!」 棍棒は中に収まり、袋はシュッと閉じた。それからウブル・タズは兄さんたちと豊かな暮らしを始めたとさ。