備忘録

備忘録/信号は赤だ

私はどうしてもニューヨークのあの同時多発テロを非難することができない。人間が自分の足で上ることができる以上の高さは不正であるとどこかで感じている。あんなのは全部ゴジラがなぎたおせばいいと、酔ったらきっと言い出す。天をも恐れぬバベルの塔の建…

備忘録/「北方領土」

<「北方領土」> 最近の日本はおかしいよ。竹島を「日本固有の領土」などと言っている。「日本の領土」だというのなら賛成しないではない。あれは水が出ない、つまり人が住むことができず住んでもこなかった無人島というか、大きな岩礁であって、日本のでも…

備忘録/アウアオ論

「ファウウスト」に酒場の名としても出る「アウエルバッハ」は、最近は「アウアーバハ」とか「アオアーバハ」と書かれる。昔と今でAuerbachさんの綴りが変わったわけでもないのに。これはドイツ語の音を日本語でより近く表わす努力であって、「ラインガウ」…

備忘録/参加希望者

裁判員制度について、マスコミは参加したくない人のことばかり取り上げるが、中にはぜひとも裁きたいと思っている人も相当数いるはずだ。しかし、何事にせよ、自分にできるだろうかと悩んでいる人々こそまさにそれをすべき人であり、おれにやらせろと思って…

備忘録/彼らの大好きなナチス

ヨーロッパ人はナチスが大好きだ。それが証拠に、ナチスに関する本はよくもまあこんなにと思うくらい毎年毎年次々に出てくるではないか。 ナチスに対してカテゴリー的な拒絶をする人たちは、よく見てみるがいい。彼らのしたことはすべてヨーロッパの文明の特…

備忘録/六か国語会話集

JTBの「六か国語会話集」をパラパラとめくっていたとき、ドイツ人を指すことばが言語によって大きくちがうのに目をひかれた。ドイツ語で「ドイチェ」、英語で「ジャーマン」、フランス語で「アルマン」、イタリア語で「テデスコ」、ロシア語で「ネーメツ…

備忘録/北朝鮮の憂鬱

北朝鮮を見ていると、戦前戦中の日本が冷凍保存されているのではないかとの思いにとらわれる。 昭和初期20年間の日本は、今の北朝鮮のような世界の鼻つまみだった。政府が軍を統制できず、政府声明と裏腹に戦火が拡大していくなど、日本人のわれわれは軍が…

備忘録/挑戦者たち

外国で外国人に日本語を教えるというのは、おもしろい経験である。 日本にいれば、学習者はつねに日本語のさまざまなテキストを目にしているのだから、それをなぞる形で訂正していける。だが外国、それも日本から遠い外国では、それがかなわないから、日本語…

備忘録/筆順三徳

国語教育と日本語教育は異なる。日本語教師と国語教師が、「書き順は大事ですね」「そうですね」と語り合いうなずき合っている場面で、その同じことばで二人が考えているものはたぶんまったくちがう。日本語教師の念頭にあるのは、「左」「右」や「必」など…

備忘録/人みなスミスにあらず

日本語教育でおもしろいのは、いろいろな経歴の人が教師となっていることだ。制度化が進みきった学校教育とはそこがちがい、その点は塾などに似ているが、しかし塾は日本国内で日本人を相手にし、受験合格という大目標があって、学校に寄り添い補完するもの…

備忘録/気になる人々

好きな人を3人あげろと言われたら、むろんたくさんいるけれど、こんな3人をあげてみようか。いわく、フランツ・ヨーゼフ、マサーリク、チトー。 オーストリア・ハンガリー二重帝国といういささか虚構じみた寄木細工の国家、官僚的でありつつ人格的でもある…

備忘録/夜寒の晩に

村上春樹と唐十郎のドラマトゥルギーは似ているのではないか。肌合いはかなり異なるが、「どこにもない国への旅」という部分はよく似ている。小説を読まぬ私が村上春樹ばかりは読むのも、きっと唐好きという部分に響くのだろう。 高橋源一郎の「日本文学盛衰…

牛鬼考補遺

大林太良氏によると、林羅山の「本朝神社考」に、「神功皇后が船で備前の沖を過ぎるとき、大きな牛が水中から出てきて船をひっくり返そうとした。すると、住吉明神が老人の姿になって出てきて、その牛の角をつかんで投げ倒した。したがって、その場所を牛ま…

正体不明の人びと

京大には正体不明の人たちがいる。桑原武夫、今西錦司、梅棹忠夫。3人とも第一級の学者とされており、それぞれ人文科学研究所・霊長類研究所・民族学博物館を作った。全集著作集も出ているのだが、ではこの人たちの主著は何かとなると、はたと考え込む。 桑…

備忘録/漱鴎二門

漱石と鴎外は並び称される。団十郎と菊五郎、大鵬と柏戸のようなものだ。作品が読まれていることで見れば、漱石が大鵬、鴎外が柏戸か。しかし、いま見えるこの眺めは今日から見てのものであり、明治文学の流れにそって見るならば、まったくちがったものにな…

備忘録/マジノ線

柳田国男と民族学の関係を見ると、おもしろいことに気づく。松本信広はかわいがられていた。一見柳田が好む性格とは思われないきだみのるのような人も親しく近づけていた。その一方、岡正雄は「破門」された。石田英一郎は縁戚でもあり、衝突したわけではな…

備忘録/行かなかった人々

ちょっとした発見や思いつきで、まとまった文章を書くには足りないものを、忘れてしまわないようにここにぽつぽつ書きつけておこうと思う。「悲しき玩具」は誰にもある。 <行かなかった人々> 今の時代、小金があって暇がとれれば、猫だろうが杓子だろうが…