ジプシーの昔話と伝説(4)

           45.あたしを心から愛してくれる人


 あるとき四人の姉妹が家の庭に坐っていた。一番上の姉が尋ねた。「いったい誰があたしたちを心から愛しているか、知ってる? 死なんばかりのところから救い出すために、自分の命を投げ出すのは誰?」 二番目の姉はこう答えた。「父さんよ!」 三番目の姉は言った。「違うわ、母さんよ!」 そして四番目の、一番下の妹はこう言った。「兄さんよ!」 すると一番上の姉は言った。「いいでしょう! すぐに試してみましょう。あたしたちは隠れてて、あんたは叫ぶのよ。父さんを呼んでこう言いなさい、毒蛇が胸に這いこんで、噛まれてしまったの、取り出してちょうだいってね」。
 そうしてみたのさ。姉妹は身を隠し、二番目の姉だけが庭に残って、こう叫んだ。「父さん、父さん、助けて、死んじゃうわ!」 すると父親がやってきて、こう尋ねた。「どうしたんだ?」「ああ、父さん!」と娘は答えた。「毒蛇が胸に這いこんで、噛まれてしまったの。ねえ、取り出して!」 すると父親はこう言った。「それはできない、わしも噛まれちまうからな。だが医者のところへひとっ走り行ってくる、医者が取り出してくれるだろう!」 そうして走り去っていった。
 そこで三番目の姉が出てきて、こう叫んだ。「母さん、母さん、助けて、死んじゃうわ!」すると母親が駆け寄って、こう尋ねた。「どうしたの?」「ああ、母さん!」と娘は答えた。「毒蛇が胸に這いこんで、噛まれてしまったの。ねえ、取り出して!」 すると母親はこう言った。「それはできない、あたしも噛まれてしまうから。でも司祭のところへ行って、どうしたらいいか尋ねてきてあげるわ」。そうして走り去っていった。
 今度は四番目の妹が庭に来て、こう叫んだ。「兄さん、兄さん! 助けて、死んじゃうわ!」 すると兄がやってきて、こう尋ねた。「どうしたんだ?」 娘は言った。「毒蛇が胸に這いこんで、噛まれてしまったの。ねえ、取り出して」。それに答えて兄は言った。「それはできない、俺も噛まれて死んじまうからな! だが居酒屋へ行って、そこの連中にどうしたらいいか聞いてこよう」。そうして兄は居酒屋へ行った。――
 そこで一番上の姉が庭に来て、こう叫んだ。「いとしい人! あたしのいとしい人! ねえ、助けて、でないと死んじゃうわ!」 すると恋人が息を切らせて駆け寄って、こう尋ねた。「どうしたんだ?」 すると娘は言った。「毒蛇が胸に這いこんで、噛まれてしまったの。取り出して」。恋人が胸をつかもうとしたら、娘は笑って妹たちにこう言った。「さあ、あんたたち、誰があたしを心から愛してくれてるかしら?」