サハリン消息/紅葉

ユジノサハリンスクの初雪は10月25日でした。だからもう季節は終わってしまったのですが、サハリンの紅葉はなかなかのものでした。しかしそれを愛でる期間は短かった。まったく気づかずにいたのです。10月12日に赴任先の大学を会場に「ロシア極東・東シベリア日本語弁論大会」が開かれて、その準備のために忙しくしていたので、うかつにもその美しい眺めをまったく見過ごしていました。翌13日に日本語教育セミナーが終わり、参加者を見送って玄関を出たときに、初めて木々の紅葉が眼前に広がっているのに気づき、根を詰めて準備した仕事が終わった安堵感とともに、豁然と心開けるのを感じました。
それからは、3階の教室の窓から見える景色を授業中も嘆賞したものです。部屋は天井が高く、通りに面した角の教室など窓が広く眺めが開けていて、まるで展望列車です。実は、サハリンに来て以来、まだユジノサハリンスクを離れたことがありません。町を離れるどころか、アパートと職場を往復しているだけというに近い。だから紅葉を楽しんだといっても、町なかの木々だけの話です。しかし、小さな町だからか、敷地や道の規格が大きいからか、自然はしっかり市中に入りこんでいます。大学は町の真ん中、旧豊原女学校の跡地にあるのですが、隣の将校会館との間の空き地なんか、まるで荒野の切れっ端です。山もすぐ近くに高からず連なる。アパートは3階です。その窓の縁は鳩どもの休み場で、窓辺に行くと時々目が会います。うむ、まあこれなら、と思います。何がこれならか知らないけれど。