「温泉津誌」刊行

温泉津を探りながら世界の深みへ落ち込んでいくようなものを書きたい、と思っていた。立論や断定を避け、類似をあちらこちらに見出す喜びを友に。南方翁に倣って。 はからずもこのコロナ禍で逼塞している間に、不十分ながらそれを一応まとめることができて、…

ポツンと数軒家

コロナ流行以来、これ以外のウィルスが減りでもしたものか、ずっときわめて健康で、風邪ひとつひかなかったのだが、ワクチンを打ったらとたんに頭が痛くなった。「ワクチン風邪」をひいてしまった。頭が痛いと本が読めず、パソコン作業もできない。テレビを…

村の論理、村の倫理

タリバンについてさして知識があるわけではないので、まちがいがあればいつでも訂正する。 最近アフガニスタンのニュース映像で目にしたのは、腐敗した外国の傀儡政権が地生いの勢力によって打倒された光景だ。南ベトナム崩壊と同じ、あるいはかつてのアフガ…

尊王攘夷

コロナに打ち勝った大会が開かれた。ロンドンで。 コロナに打ち負けた大会が開かれた。東京で。 オリンピックを開催したところで、それが無観客ならほとんど意味はない。テレビ局への奉仕であるだけだ。無観客試合は、サッカーではホームチームやそのサポー…

モンゴル妖怪名彙メモ

新型コロナのため実現しなかったけれど、内モンゴルに調査に行く計画があって、それに備えて日本語の文献からモンゴルの妖怪を抜き集めてみた。昔話や伝説の中に現われるものと実際に民俗社会で恐れられているものが混在しているが、とりあえず管見に入った…

いつのまにこんなに

5月末からサッカー日本代表の9連戦というのがあって、女子代表のメキシコ戦以外は全部見ることができた。全勝。A代表とU24の試合があったが、あれのU24代表は除いて。 代表チームの強さに驚かされた。点もバンバン取っていたが、何よりもシュートを打た…

世代方言簡易アンケートの調査結果

石見地方の大学生5人と高齢者(60歳以上)5人にアンケートに答えてもらった。ごく簡単なもので、回答者も少なく、予備調査のようなものである。回答者はすべて沿岸部出身者だった。山間部で聞けば結果は多少違ったかもしれない。 1-4は世代差を見るための問…

石見方言への標準語と新方言の浸透

甲南大学方言研究会の「JR山陰本線出雲市-飯浦間グロットグラム集」(2017)というたいへんおもしろい調査報告がある。この研究会は同じ調査方法で「JR山陰本線石見福光―松江―伯耆大山間グロットグラム集」(2008)・「JR山陽本線広島―岡山間グロットグラム…

ヒヤミズピック讃

ボルネオにいたとき、ちょうどアジア・マスターズ陸上の大会があり、それに朝原選手らの400メートルリレーチームが出場すると聞いて、見に行った。チームは45歳以上の部で世界記録を出して、みごと優勝した。その記録がどれほどのものかと思って調べてみたら…

五輪組織委員会長職

五輪組織委員会の会長が辞任して、後任をどうするかという話になっている。 辞任に至るきっかけは、ほとんどフレームアップである。コンテクストの無視によって、大した問題でないものが拡大されてしまった。なるほど失言をしたし、それは不適切であった。「…

家族同姓

前近代において、名前は変わるものであった。近代ではそれは固定されている。筆名芸名や雅号など、あだ名や通称、犯罪や潜行のための偽名など、本名を冒さない範囲でのまたの名があるばかりで、当局に登録した名前は簡単に変えることができない。縛られるの…

山陽快晴、山陰は雪

先日、東京からの帰り道、岡山からの伯備線で、いつもの冬の山陽快晴、山陰積雪の風景を見た。関越道の立往生が発生した寒波のときである。 雲もほとんどない晴れた広島を出たバスが快調に走行し、少しうとうとしかけていたら、やにわに速度を落としはじめ、…

クチンの日本人墓地

ボルネオ島西海岸のサラワク州の首都はクチン。その中心部から南に下がり、バトゥ・リンタン通りから少し北に入ったところ、かつての捕虜収容所から遠からず、華人墓地の東に、「極楽山」と書かれた門と柵に囲まれた日本人墓地がある。紀元2600年(1940)記…

漫才「漢字しりとり」

A:きょうは運動会ですね。 (運動会と書いた紙を示す。以下同じ) B:運動会の前には会議をたくさんしました。 A:会議で議論しました。 B:「論」…。議論では論理が大切です。 A:理論が必要です。 B:また「論」ですか…。議論ではよく論争が起こります。 …

「戦時生活様式」

「新しい生活様式」なんだそうである。 いろいろな実践例が数多く列挙され推奨されているが、その中にこの新型コロナ禍が収束したあとも本当に必要なものはどれだけあるのか。皆無ではない、という程度ではないのか。実のところで言えば、これは臨時生活様式…

サラワク日本友好協会(SJFC)史稿

サラワクという地名はあるいは多くの人にとって耳慣れないかもしれないので、はなはだ迂遠ながらその説明から始めよう。 サラワクはボルネオにあるマレーシアの州である。すると、あれ、ボルネオはインドネシアじゃなかったっけ、カリマンタンというのは何だ…

テレビについていくつか

ものごころついたときからうちにテレビがあり、ずっと見てきた。テレビ受像機がない状態でなければ、何かしらは見ていた。テレビは24時間いろいろな番組をやっている。各人の好みによって何を見てもいいし、何を見なくてもいいし、全然見なくてもいいどころ…

クチン日録(6)

2月某日、アグネス・キースの「White Man Returns」読了。日本語訳で読んだ「風の下の国」「三人は還った」に続き、これで彼女のボルネオ三部作は全部読み終えた。雨季の晴れ間を盗んで、川べりのテラスで昼はテタレを、夕方はビールを片手に、サラワクの川…

クチン日録(5)

12月1日、JLPT試験日。いつものように合格祈願に行く。今回はSJFCの近くのスーパーの屋上にある天后宮。見晴らしがいい。合格の見通しもよければいいが。12月某日、スタジアム・サラワクでアジアマスターズ陸上競技会が開かれる。日本人も多数参加しているよ…

新型コロナに関する疑問

私は素人である。医学の専門知識などまったくない。そんな人間がわずかな情報から常識のみによってこの病気について考えることにする。素人の寝言など聞きたくなければ、読まずにすませてほしい。 この新型コロナは「コーカソイド・キラー」であるようだ。こ…

クチン日録(4)

10月某日、カーペンター通りの食堂(クチンで2番目にコロミーがうまい店)でコロミーを食べる。この店の主人は30年前に日本に留学していたそうで、日本語ができる。日本人にとってボルネオは身近でないが、その逆はけっこう身近なようだ。夕方7時からシティ…

クチン日録(3)

8月某日、中華料理店でSJFC創立15周年記念ディナー。豚肉が出る。それはつまり、出席者にマレー人がいないということ。日本人2人とビダユー人1人のほかはすべて華人だから。多民族地域なのに、残念な点だ。8月某日、コダーイ国際シンポジウムが開かれている…

クチン日録(2)

6月某日、ある受講生にラマダンバザールを案内してもらう。するめがあった。彼女はクオーター日本人だと知る。祖母は引き揚げのとき現地人に預けられたというから、つまり残留孤児だ。前任者も河畔で偶然クオーター日本人に会ったとブログに書いていた。案外…

クチン日録(1)

3月某日、マレーシア航空でクチン到着。40分遅れ。砂日協会A会長とH事務局長迎えに来てくれる。3月某日、前任者の送別会兼われわれの歓迎会。優秀学生の表彰。H氏は翌週のうちにビザ取得、銀行口座開設、名刺作成、SIMカード購入などてきぱきとやってくれる…

札幌東京マラソン

いささか旧聞だが、IOCによる強引なマラソンの開催地変更という事件があり、それについていろいろな意見があった。 いわく、一生懸命準備をしてきたのに、IOCがそれを覆して一方的に決定し押しつけるのは不愉快だ。同意する。 いわく、夏にやるのが根本的な…

カタカナかるた

アニメにはまって日本語習うインスタ映えするマレーシアウガンダ ブルンジ アフリカの国エアコン強くてかぜひいたオーストラリアでカンガルーを食べるカメラはいらない スマホがあればキナバル山は富士より高いクチンよいとこ 一度はおいでケーキは食べたい …

ボルネオだより/かなカードを使ったカタカナ習得

今までは大学の日本語学科で教えることがほとんどだったから、この任地に来てとまどうことはいろいろあった。 前任からの申し送り事項に、個々の学生について「音読がまだおぼつかない」だの「やっと音読ができるようになった」だのと注記があるのに「?」と…

ボルネオだより/「今は冬ですか?」

8月に授業で生徒に「今は夏ですか」と聞かれて、さすが季節のない国、そんな温帯では当たり前のことを質問するのかとおもしろがっていたら、その数日後には「今は冬ですか」と聞かれて仰天した。乾季と雨季という季節はあるものの、気温自体はほとんど変わら…

だめなのは本だけか?

だめな本を2冊読んでしまった。「韓国人のまっかなホント」(金両基著、マクミランランゲージハウス、2000)と「韓国人とつきあう法」(大崎正瑠著、ちくま新書、1998)である。 「まっかなホント」シリーズはおもしろく、いくつかを楽しく読んだ。外国人か…

ボルネオだより/本溜りから本溜りへ

日本人がいた外国の土地なら、昔住んでいた人が置いていった本がどこかに溜まっているものだ。結果としてそんな本溜りから本溜りへ渡り歩く生活をしている。もともと捨てていった本だから、誰でも自由に借りられることが多く、それを読んで渇を癒やす。その…