だめなのは本だけか?

 だめな本を2冊読んでしまった。「韓国人のまっかなホント」(金両基著、マクミランランゲージハウス、2000)と「韓国人とつきあう法」(大崎正瑠著、ちくま新書、1998)である。
 「まっかなホント」シリーズはおもしろく、いくつかを楽しく読んだ。外国人から見たその民族の目につく滑稽な特徴を揶揄するもので、根底に愛情がありつつ、底意地の悪さものぞかせながら、おもしろおかしく叙述するという作りだ。この本以外はそうだ。だがこれは、著者が在日韓国人であることから見て、英語版にはなかった日本語版オリジナルだろう。韓国人を褒めてばかりなので恐れ入る。
 たとえば「ユーモアのセンス」の項で、農村仮面劇の場面、母の脈を取るために陰部に手を当てる知恵遅れの息子とか、遊女に惑い、彼女が小便をした土をすくってその臭いを嗅ぎ、なりふりかまわず後を追う老僧などというのを例として挙げている。こういうのは直截で粗野な、下肥の匂いのする風刺である。そういうものとしておもしろくはあるが、ユーモアではない。ユーモアというのは客観的に自己を含めて相対化する笑いだ。まさにこのシリーズがユーモアにあふれているのに、それに欠けるこの本がこんな例をもって韓国人はユーモアがあると考えているのだから、そのこと自体が滑稽だ。
 外国人から見た韓国人の最大の特徴といえば火病と犬肉食いだが、それについてはまったく言及がない。それじゃいかんだろう。自国民(在日とはいえ)が自国民について書くからそうなる。ただ、彼らが自分をどう見ていてどう見られたがっているかがわかったのは、いい点だと言えるかもしれない。
 この本が書かれたあとのことだけども、ソウルでアメリカ大使が暴漢に刺されるという事件があった。そのニュースを聞いてうろたえた善良な韓国市民は、どうぞこれを食べて元気になってほしいと愛犬家の大使に犬肉料理を差し入れた。ブラックジョークじみたこの出来事などは、まさにこのシリーズにうってつけの韓国人の善良さと犬肉食をともに紹介するいい例なのだが。

 ちくま新書のほうの著者は、特に韓国と関わりがあるわけではないようだ。なぜ筑摩書房ともあろうものがこういう人にこのテーマで書かせたのか。ほかに人はいないのか不思議である。本人も自分自身の経験の乏しいのはわかっているのだろう、ほかのあまたの韓国観察書から見解やデータを集め、それを整理して提示しているので、その点で有用でなくはない。身体動作に関して不必要なことまで長々と引くなどという原稿引き伸ばしとしか思えない部分もあるけれど。日本語の起源について、定説からほど遠い安本美典の説にあたかも定説の如く依拠しているのにも面食らう(この問題に定説はないにせよ、これは定説扱いされていい説ではない。個人的に取るべき点はあると思うけれども)。
朝鮮人は、本当に怒ると正気を失うといえるかもしれない。自分の生命などどうなってもいいといった状態になり、牙のある動物になってしまう。口のまわりにあぶくがたまり、いよいよ獣めいた顔つきになる。(中略)遺憾なことだが、この怒りの衝動に我を忘れるといった悪癖は、男性だけの独占ではない。それに捉われた朝鮮の女は、(中略)すさまじい狂暴さを発揮する。女は立ちあがってひどい大声でわめくので、しまいには喉から声が出なくなり、つぎには猛烈に嘔吐する。(中略)どうも朝鮮人は、幼少のときから自分の気分を制御する術を学ぶことがないらしい。子どもも親を見ならって、自分の気に入らないことがあると、まるで気が狂ったように大あばれして、結局、我意を通すか、それとも長くかかって鎮静にもどるか、そのいずれかに落ちつく」(p.68、ホーマー・ハルバート「朝鮮滅亡」太平出版社より)。
 これは朴泰赫「醜い韓国人」(光文社)からの孫引きだが(したがってこれはひ孫引き)、前掲書の補いとしてはちょうどいい。
 ユーラシアと日本の間にはブラキストン線のような人間精神分布上の境界線がくっきり引かれている。その意味で韓国朝鮮はおもしろい。明らかにユーラシアに属していて日本と明確に異なる点(議論好きとか罵倒語とか。韓国人は人に物を差し出すとき右腕に左手を添えるが、マレーシアやウズベキスタンでもそうする。これもあるいはユーラシア的所作か)が多いけれど、韓国独自な点(怒りがここまで嵩じるのなどはそうだろう)、日本と共通している点(世界にまれなほぼ単一民族の国であることなど)もあって、移行空間だと感じられる。どうしても「日本と中国の間」という宿命的な位置から逃れられないようにも感じる。

 いま日韓関係がこじれている。その直接の原因はいわゆる徴用工補償判決だが、こういう分野の素人である筆者にも気がつく重大な問題があると思うのだけれども、なぜそれが議論されないのだろうか(たぶん識者はわかっていて、下手に言及できないので黙っているのだと思うが)。条約締結後も徴用工の個人の請求権があるのかどうかは、法律にうとい私にはよくわからない。あるのかもしれない。しかしことはそんな問題ではない。
 この裁判の原告は徴用工ではなく、会社の工員募集に応募した応募工だという。あの判決は要するに、日本の半島支配は不法であり、その不法な支配下で苦しんだ人々にはそれに対する補償の請求権がある、と言っているのだろう。だから徴用工でない応募工にも補償をしなければならないという論理で、その権利は相続されるらしいから、戦前朝鮮半島に暮らしていた人たちとその子孫、つまり韓国人のほとんど全員に請求権がある。日本には認められない論理だから、対立するのは当然だ。互いの主張がせめぎ合う高度な政治レベルの問題であるばかりでなく、歴史を書くというレベルの問題であるはずで、それを一裁判官が決めるんだって?
 韓国については「ゴールポストが動く」とよく言われる。合意したはずなのに、新たに問題を持ち出されて合意が無効になることがしばしば起こるのだ。退任した大統領が逮捕されることもよくあるどころか、ほとんど原則のようになっている。そんな状態では、うっかりすると前の政権の合意が簡単に覆されるのは当然かなと思ってしまいそうになるが、当然なはずがないだろう。
 これについて、あの国では政権交代は「王朝交代」なのだという解説を読んだ。なるほど、そう考えれば前大統領の逮捕だの合意の破棄だのもわかる。しかし、わかるというのは認めるということではない。300年も続いた王朝が打倒されたあとなら、易姓革命で権力を奪取した新王朝が前王朝を辱め政策を覆して歴史を書き直すのもよかろうが、任期5年ごとにそれを繰り返されてはたまらんよ。およそ近代国家のふるまいではない。ま、北隣には兄や叔父を粛清し暗殺する世襲「皇帝」のいる「王朝」が厳然と存在しているわけで、それよりは多少近代だが、あの国とならあまり慰めになる比較ではあるまい。
 韓国も中国も「正しい歴史認識」を持てと日本に要求する。「歴史を忘れた民族に未来はない」のだそうだが、しかし彼らの言う「正しい歴史」は彼らが主張する歴史であり、それは日本の右派の信じる偏向した歴史と同等かそれ以上に偏向した歴史(逆方向に)である。そこにあるのは歴史ではなくて政治だ。
 「日本海」名称問題などがまさに好例で、あれは朝鮮半島から見てのみ「東海」であり、日本からはそうではないどころか、その反対だ。沿海州から見たらむしろ南海だし、中国で「東海」と言えば東シナ海のことだ。なぜ彼らだけに当てはまる名を国際名称にしなければならないのか、理解不能である。彼らにとって正しいものが、相手にとっても正しく、世界にとっても正しい。彼らがすべての正邪を決定する。ひとり日本海にとどまらず、歴史についてもしかり。それですむならこんな簡単なことはない。中国が地図上に台湾を国として書くなというのとはまったく異なる。彼らは台湾は中国の一部だと主張していて、それに根拠がないわけではない。その主張を認める認めないとは別に。「東海」のほうは自尊独善以外の根拠などまったくない。それなら黄海も「西海」としなければならないわけだが、それを世界が(特に中国が)認めるのか?

 日本と関係悪化、中国とも決してよくはなく、アメリカとも問題をはらんでいる。韓国の現政権は目下北しかよりどころがなくなっている。それを見すかして、ミサイルもしこたま飛ばしつつ、北朝鮮は韓国をものすごいボキャブラリーで罵倒している。なかなかしたたかだ。きわめて粗野だが、これが外交というものだ。だてに瀬戸際外交をやってはいない。譲歩を余儀なくされるだろうし、それが同盟国との軍事協約の破棄なのかもしれない。同一民族であるだけに、韓国人は理性的に行動できないと見切られているとさえ思える。

 非理性ついでに、東京オリンピックもボイコットしたらどうだろうか。彼らのスポーツマンシップの欠如には驚くべきものがある。負けたことが認められないという根本的な欠陥があるので、勝ち負けを競うスポーツには徹底的に不向きだ。負けても負けを認めぬ阿Qの精神勝利法とは違う「喚き散らし勝利法」なので、相手は迷惑なことおびただしい。こんな連中がいなくなればキヨキヨしくなるよ。
 こんなこともあったな。ユヴェントスの韓国での試合でロナウドが出場しなかったことがあの国において大スキャンダルになっているらしい。スウェーデンまで追いかけて行ってロナウドに謝罪せよと要求する韓国人がいたとか。ロナウドSNSには韓国人の罵りの声があふれているそうだ。これが火病だね。ロナウドが45分出場するという項目が契約にあったというのだが、契約が破られたのなら謝罪して違約金を払えばそれですむことだ。謝罪はされていないようで、だから怒っているのだと思うが、その場合も謝るのはロナウド個人ではなく、契約を結んだユヴェントスである。欧米人は要するに肌の白い中国人で、面の皮がおそろしく厚い連中だからたいへんだろうと思うけれど、がんばってユヴェントスから謝罪と違約金を引き出してほしい。ロナウドからではない。なぜそんなことがわからないのか、本当に不思議だ。

 書き終えたあとで表題を見返して、「だめなのは日本だけか?」に見えることに気がついた。うん、日本もだめなんだけどね。それをはるかに超えるものがあるね。