備忘録/アウアオ論

「ファウウスト」に酒場の名としても出る「アウエルバッハ」は、最近は「アウアーバハ」とか「アオアーバハ」と書かれる。昔と今でAuerbachさんの綴りが変わったわけでもないのに。これはドイツ語の音を日本語でより近く表わす努力であって、「ラインガウ」は「ラインガオ」。AUを「アオ」とするのである。たしかにドイツ語のAUは日本語の「アウ」より「アオ」のほうに近い。しかし、そんなことはやりだしたらきりがない。「ギョエテとはおれのことかとゲーテ言い」というが、「ギョエテ」のほうが「ゲーテ」より実際に近いとも言える。要するに、AUはドイツ語の問題、「アウ」「アオ」は日本語の問題。近似値をもとめる作業は、その外国語を知らない人にも納得できる適当で妥当なラインでとどめるのがいいし、慣用尊重は大原則である。ローマ字読みで大して不都合がなければ、何を改めることがあろう。書いてあるとおりに読めないのは漢字で十分だ。外国語を知っている人たちの狭いギルドで日本語が変えられてはいけない。Tolstoiは、ロシア語の発音に近く書けば「タルストーイ」のはずだが、「トルストイ」でいいのである。ロシア語の節度にならうべきだ。ずっと「ハウス」だったHausが、急にみんな「ハオス」になったら困るでしょ。
  AUならばアウにしておけバオハオス