備忘録/「北方領土」

<「北方領土」>
最近の日本はおかしいよ。竹島を「日本固有の領土」などと言っている。「日本の領土」だというのなら賛成しないではない。あれは水が出ない、つまり人が住むことができず住んでもこなかった無人島というか、大きな岩礁であって、日本のでも韓国のでもないはっきりしない状態が近代まで長く続いていたもの。「韓国固有の領土」でもなく、帰属を主張する根拠は双方にあり、客観的に見て日本側の根拠のほうがやや有利だというにすぎない。「不法占拠されている固有の領土」と言われては、その逆を主張せざるを得なくなる。
「固有の領土」の本家は「北方領土」である。そのうさんくささまで引き継いではいけない。だいたい「北方領土」などというのは日本語でない。「日本固有の領土」なら日本語の名前があるだろう。何だい、「ホッポーリョード」って。これは、それを失ってから役人たちがひねり出した名辞である。1945年以前に死んだ首相らを冥府から召喚して、「北方領土」はどこですかと聞いてみればいい。「何じゃ、そりゃ?」と言われるに決まっている。あるいは樺太北半の話を得々と始めるかも。役人が使うことばは日本語でなく、百姓や漁師が使うことばが日本語である。オウムに教えこむみたいに、政治家や役人がまっとうな日本人に言わせるようしこんできたのがこの「北方領土」だ。「南千島」なら日本語である。択捉以南を指すと決まってはいないが、だいたいそのあたりと見当はつく。だが、日本語を国語とする日本政府はこの名称を使わない。「千島」は放棄しているからだ。国後・択捉は千島列島でないというかなり無理のある論理を押し通すための根拠が「固有の領土」論であり、その名称的帰結が「北方領土」なのだ。
日本語の名前のある竹島は、その点でまだましではあるのだね(しかしそれも、「松島」との混乱があったりして、分明であるとは言えない)。シオランにならえば、「私の祖国は日本語」だ。ならば、その祖国に「北方領土」はない。あるのは「国後」「択捉」「歯舞」「色丹」であって、うちふたつは確実にもどってくる。もうひとつそれに上乗せできれば上々で、平和裡の解決はそこまでだろう。ほしけりゃ戦争で分捕れ。