見たい、見たい、もどかしい

 このところの日本代表は男女ともすごい試合をしているようで、うれしくはあるのだけれど、外国にいるため見られないのがもどかしくてしかたがない。

 女子W杯の日本戦は試合翌日にFIFAの配信で見ただけ。見られないよりは数倍いいけれど、結果がわかったあとで見るのは気の抜けたビールのようなものだ。

 日本がやった5試合しか見ていないので、決勝トーナメントにぎりぎり出て来てすぐ負けた今回のアメリカチームがどんなものだったのか知らないのだが、男子におけるドイツみたいなものじゃなかったかという疑いを持っている。存在が巨大になりすぎ、みずからのその存在の大きさに溺れてしまって、サッカーをするより「政治をしていた」のではないか。試合前の写真撮影で口をふさぐパフォーマンスをしたドイツ男子チームのように。そして、「サッカーをしに来た」チームに敗れ去った。

 優勝したスペイン女子代表チームは、大会前にも一部選手が結束してもめていたらしい。いきさつはよく知らないが、人間関係によるごたごたは女子の集団にありがちなことで、演劇部などでよくある光景だったなあと思い出す。それでも(そして日本に完敗しながらも)優勝したのはすごいけれども、その表彰式で会長が主将の頭を掴んで唇にキスをしたとかで、えらい騒動になっていた。せっかくの優勝があれでかすんだのは気の毒だ。非難囂々でも辞任しないとがんばっていたあの会長、万やむを得ず辞めたけれども、悪かったなんて1ミリも思っておらず、死ぬまでそう言い続けるだろう。それは、彼個人の資質というより、そういう民族であるからだ。息子のためにハンストをしたという母親もそうで、あんなことはごくふつうで、目くじら立てるようなことではないと、あの世代の女性自身が思っていることがわかったのは収穫だ。

 唇だから問題なので、頬なら完璧に日常であるわけであってみれば、コロナがまたたく間に蔓延したのもうなずけるし、マスクを蛇蝎のように嫌うのもよくわかる一件だった。感染症拡大に役立つことなら何でもやる人たち、ということだ。

 この騒動の余波で優勝監督も解任された。それは大会前の決起女子選手たちの要望であったのだが、会長監督ともに消えたあとでもスペイン女子選手はまた同盟罷業を宣言している。面倒なことだ。次の大会では「サッカーをしに来た」チームに敗れてほしいものだ。

 

 ドイツはW杯の雪辱を期して日本を招待して試合をしたわけだが、結局のところはやはりどこかで「なめていた」のであろう。その直後の、おそらく現在世界最強のフランスとの試合に勝ったところを見ると。あるいは、「言語」(身体言語)の違いにとまどった、とも考えられる。身体的特徴の大きな違い、試合以前の、こうすればこうなる的なサッカー「話法」、暗黙理解の分野での微妙な違いに合わせることができなかった、とも。フランスとは同じ「言語」を共有しているので、勝つこともあれば負けることもあるけれど、意外なことは起こらない、ということではないか。実力がかけ離れていたらそんな違いは力でねじ伏せられるが、拮抗していたらその点に足をすくわれることはあるだろう。だから地球大のスポーツであるサッカーはおもしろい。

 日本戦の感想を求められたポドルスキは、まず日本をほめなければならないね、彼らの近年の成長を見るのは楽しいことだ、と言ったそうだ。リトバルスキーしかり、ブッフバルトしかり。日本でプレーした選手は、日本人の欠点も知るが、長所もよく知っていて、正当に、かつ高く評価する。彼らにはこの結果に対する驚きはなかっただろう(残念な気持ちはあるだろうが)。知は力なり、である。ポドルスキはまた、ドイツチームに何が起こっているのかと問われて、チーム内の人間でない自分が言うのはフェアでないと、答えることを避けた。それも正しい態度である。フェアであるのは美しいことだ。

 選手の言説では、久保選手が「コンディションは僕史上過去最高」などと言って、実際そのとおりに大活躍したようだ。日本選手でいやなのは、定型稿しか言えない者ばかりであることだ。メディアもそうで、あらかじめ組み立てたストーリーどおりに進めたがる。「式次第」にのっとって「セレモニー」をするのが仕事だと思っている。そんな中で、自分のことばで自分の気持ちを的確に語る久保選手は、一頭地を抜いている。彼のコメントを聞く(読む)のは楽しい。

 

 女子のスペイン戦。ボールは支配され回されながら、カウンターで4点も取って、1点も与えない。男子のブラジル戦でそんなのを見た覚えがあるぞ。

 今のドイツは、中盤は非常にいいが、絶対的なフォワードがいない、ディフェンスが弱い昔の日本みたいに思える。

 さてもさても、世は逆さまと成りにけり、である。

 今の日本は、フォワードに絶対的な選手がいないのはあいかわらずだけれど、最終の得点スコアには驚かされる。そして、ディフェンスの強固さには目を見張るばかりだ。格下チーム相手とはいえ、シュートをほとんど打たせない試合もいくつも見てきた。それだけでも驚きだったが、ドイツ相手に堅固なディフェンスを見せつけていたとは。かつては鉄壁の守備を誇っていたドイツの今のもろいディフェンスとは対照的だ。桑海の変、か?

 三笘・伊東の両翼は、ロッベンリベリーバイエルンじゃないか? これでレヴァンドフスキが出てきたら、本当にワールドチャンピオンになってしまうんじゃないか?

 妄想は果てしない。見ていないから、それがさらにふくらむ。

 しかし。「強い日本」をよろこぶ一方で、こんなことがあっていいはずがない、いつかしっぺ返しが来る、と恐れる気持ちもどこかにある。困った貧乏性である。