スマホでサッカー

宿舎には新品の大画面液晶テレビがあるのだが、データ回線(IT関係に弱いので、用語が正確かどうかわからない。テレビのケーブルでなく、インターネットにつながるケーブルだということ)が非常に悪く、しばしば止まる。シュートの瞬間に止まってしまう。30秒ぐらいあとに動き出したとき、得点表示を見て、それに変化がなければ、ああ、あのシュートは外れたのだなと知る、などという状態だったので、ばかばかしいから見なかった。中国超級が見られなくても大事ないが、CCTVチャンピオンズリーグACLも中継しているので、それが残念だったけれども。
だが、学年も終わり近くになって、学生がスマホでテレビが見られるように設定してくれたので、それでCCTV5(スポーツ専門チャンネル)を見ていた。おかげでCLは準決勝第2戦から、ACLはベスト16から見ることができた。授業が終わる頃には、女子サッカーW杯、U21欧州選手権、熊猫杯国際青年足球を浴びるように見た。
U21欧州選手権では、準決勝がドイツ対ポルトガルだったのだが、その結果は0−5。決勝はスウェーデンポルトガルで、これは延長0−0の末PK戦スウェーデンが勝利。ポルトガルはなかなかいいサッカーをしていて、だから優勝候補筆頭だったらしいドイツに勝っても何ら不思議ではないが、そのスコアは異常だ。1−0や2−1ならわかるし、3−0までなら許容範囲だが、5−0は範囲外である。しかし、こういうことが起きるのがサッカーだ。実力が上か少なくとも同等のドイツにあんなスコアで勝っておきながら、下のスウェーデンに0−0というのもひどいものだ。もののはずみと言うか、若さが極端に振れやすい例か。シュートがたまたまうまくゴールになったドイツ戦は5点も取れ、いいシュートは放ちながらなぜかゴールに収まらなかったスウェーデン戦は0点。準決勝か決勝がドイツ−スウェーデンなら、ドイツがきっちり勝っていただろうに。
熊猫杯国際青年足球というのはU19(か17)の大会で、日本のほかに中国・キルギス・スロヴァキアが参加していた。日本チームの圧勝。キルギスはともかく、ホスト国中国も圧倒していたし(5−1)、ヨーロッパの中堅どころであろうスロヴァキアにもほとんどシュートを打たせず、完勝だった(2−1。しかし相手の1点はPKだし、そのファウルもペナルティエリアの外だった)。日本選手が長いサイドチェンジを普通に正確に蹴っていたのに驚いた。成都でやっていて(それで熊猫杯か!)、そのことに早く気づいていれば見に行けたのだが、知ったときはもう遅かった。日本人の観客はほとんどいなかったらしい。成都の日本人会は案内をしなかったようで、それは中国でのサッカーの試合を恐れる自粛好きの日本人の過剰な対応ではないかと疑っている。邪推かもしれないけども。


女子サッカーではこのところ日本チームは好成績をずっと続けている。ワールドカップとオリンピックでは3大会続けて決勝進出、優勝・準優勝・準優勝だから立派なものだ。決勝トーナメントに進出するのが大成功だった時代を見ている目で見れば、何かの間違いじゃないかと思うほどだ。
女子サッカーと言えば、美人選手が取り上げられることが多く、それをたしなめる声がある。だが、それは正しくない。ルールが男子とまったく同一だから、女子サッカーは体格や運動能力からいって男子高校サッカー・中学サッカーのレベルでしかない。女子サッカーだけを称揚する理由なんかまったくない。それならユースやジュニアユースも同等に取り上げるべきだし、その観点からならユニバーシアードも扱いが小さすぎるということになるだろう。先日行なわれたようで、今回は3位だったそうだが、すでに何回か優勝しているぞ。優勝1回の女子より多いぞ。女子が女子の価値を示すのは、美人というところぐらいしかないだろう、というのはむろん極論であるが、極論にはしばしば真実がある。
テニスやバレーボールのような身体接触のない競技では、力任せの男子と違い、女子の試合はラリーが多く続くなどの特徴が出ていて、それなりのおもしろさがあるが、サッカーになると要するに「胸と尻が出っ張って髪が長い中高生」のゲームだから、ゼニが取れるものではない。日本では高校生がリーグ戦をやっているようだが(プリンスリーグだったっけ?)、あれを金払って見に行く人は女子サッカー選手の待遇について云々してよい。それ以外の人は黙っているのがよかろう。女子は要するに「アンダーカテゴリー」なのだ。
だが、女子サッカーには男子にない美質がある。男子プロにない、というべきかもしれないが。
準決勝の4つのPKはみな誤審だった。アメリカと日本が得たPKは、ペナルティラインのぎりぎり外でのファウルだからFKだったはずだし、イングランドのはPKではなかった。大儀見は足を掛けていない(日本のPKの帳消しの意味があったのか、なかったのか、まあ日本を応援していたこちらとしても後味良くないPKがチャラにできたから、さして文句はないのだが。これであいこ。もう1点取ったほうが勝ち。すっきりしてよろしい)。ドイツのPKはエリア内のひどいファウルだから、PKは当然だけれど、アメリカ選手にはレッドカードが出されてよかった。米独戦について言えば、あのPKは失敗だったとしても、あそこでアメリカが10人になっていて、彼女らのPKもなかったとしたら、結果に重大な影響があったかもしれない。試合内容から言えば、アメリカがずっと優勢で、アメリカ勝利は妥当であるけれども。
ま、誤審はいい。しかたがない(準決勝のような重要な試合で得点にからむ4つは多すぎるが)。驚くべきは、それに対して選手も監督もほとんど抗議をしなかったことだ。これが男どもならたいへんだ。5分ぐらい試合が止まるような猛抗議、観衆からの大ブーイング、選手2人ぐらいにイエローカード、監督の退席処分なんてごく普通の光景だ。
同時期に開催されていたコパ・アメリカは、CCTVがやってなくて見られなかったが、男子サッカーと女子サッカーの違いを最大限に示していただろうと思う。ダイブしまくり、わざとらしく転げまくり、挑発満載、演技満載だったに違いない。「お前の親父は刑務所行きだ」(死亡事故を起こしたらしい)と相手フォワードを挑発した上、尻の穴に指を突っ込み、怒った相手(そりゃ怒るさ)に殴られたごとく大げさに倒れ、退場に追い込んだということがあったとニュースで読んだが、これが氷山の頂上だとしたら、それを支える無数の悪辣なプレーやプレー以前のことどもがあっただろうと容易に想像できる。
女子サッカーにラフプレーや審判を欺くプレーが少ないのは非常に気持ちがいい。それは中学サッカーや高校サッカーにも共通する。要するにアマチュアだから、十分にプロ(それはしばしば「汚い」と同義)でないからだ。言うなれば、「ブランデージの夢」である。
女子サッカーは北米、西欧北欧、東亜のスポーツで、男子ではあれだけ強い南米や南欧が弱い。アフリカも、まるで昔のアフリカ男子のように、身体能力に優れるが、弱い。イスラム圏が弱いのは当然だろう。彼らが女性に期待することは欧米スタンダードとはまったく異なる。インドも。ま、インドは男子も弱いが。アングロサクソンとゲルマンが強く、ラテンはフランス以外は弱い。スラブもなぜか弱い(ラテンが弱いのは何となくわかるが、スラブが弱いのはちょっと不思議だ。十分に豊かでないためか)。つまり、先進国の中流階級子女のスポーツだ、ということだ。その証拠に、見てみなさい、男子代表にあれだけ多い黒人がほとんどいない。フランス代表なんか真っ黒だし、イングランド代表も最近はかなり黒い。黒人がいて当たり前のアメリカの代表にはかえって少なく、ヨーロッパに目立つのも一興だが、女子については、フランス代表にこそ何人かいたけれど、イングランドアメリカなどほとんどいないばかりでなく、金髪の比率が非常に高い。実社会以上のような気がする。コロンビアは美女が多いと言われるが、コロンビアチームに美女はいなかった。美女にはサッカーなどよりほかにすることがあるのだろう。先進諸国では美女もサッカーをする。後進国ではそうはいかない。


ベスト8がせいぜいと思っていた日本チームが決勝まで進んだのは、カナダと同じ山に入ったため(開催国カナダが決勝に進むための道が整備されていたので、挫折したカナダに代わり日本がそのルートに乗っかった)というくじ運は大きかったろう。また、オーストラリアがブラジルに勝ったため、オランダ・オーストラリア・イングランドと、同じタイプのサッカーばかり続いたのも幸運だった。一段上がるにつれそのグレードアップとなり、最後のイングランドにはけっこう苦戦した。日本が最終的に勝ったのは妥当であるけれど、そう思わない人もかなりいただろう。悲劇的な幕切れだったし。だが、体格差で勝つサッカーが勝ってもつまらないよ。
蘭・豪・英ときて、アメリカはその最終進化形であった。組織力や前への推進力でそれらの国々とは断然違った。
日米戦の感想はふたつ。前大会の双方の主役、澤とワンバックの姿だ。ともにスタメンでなく、終盤に出てくる(決勝の澤は出番が早かったが)。老雄の去り際の感が深い。3位決定戦を終えたカーンとフィーゴのような。ワンバック登場のとき、澤とさりげなく手を合わせていたのに感慨を持った。
そのワンバックは、アメリカが前半立て続けに4点を取ったとき、周りの選手に「私はもう死んでいて、天国にいるんじゃないかしら」と言ったそうだ。むろん冗談だが、サッカーで、しかも決勝で、あんなに狙ったとおりに点がぽんぽん取れることなどまずない。だから正直な感想で、あの時間帯は至福の時だっただろう。早い時間にコーナーキックから注文どおり(練習どおりだったに違いない)にやられたが、監督はロイドの位置がおかしいと気づいていたらしい。選手にそれに気がつく者がいなかったことが敗因、あるいは監督が試合前にその想定をすることができなかったが敗因と言えば言えるが、それよりアメリカチームを褒めるのが正当である。あれで勝負がついた。U21欧州選手権準決勝のようなものだ。ポルトガル−ドイツ戦と違い、アメリカのほうが力が上なのは明白だったけれども、スコアほどの差はなかったはずだが。
結局、セットプレーでやられたと言っていい。1・2・5点目がそうで、みすみすしてやられた感じ。3点目は、岩清水のクリアミスを直接叩き込まれたもの。ああいうミスをすれば得点になることはよくあるが、あんなに美しい点になることはあまりない。だからその分は不運ではある。
ロイドのロングシュートについては、ああいうとき気の利いた選手なら必ず狙うが、そうそう決まるものじゃない。それたり、キーパーが何とか触ったりして、ゴールにならないのが普通だ。1センチに笑った者が1センチに泣いた、と言うこともできる。準決勝で、あのイングランド選手の足があと1センチ長ければ、クリアしたボールはゴールラインの内側でなく外側に落ちただろう。決勝で、海堀の手があと1センチ長ければ、ボールは指先に当たってゴールポストに救われていただろう。うまくできている。ま、あれが入っていなかったら勝っていたかもしれないイングランドに対し、日本はあれが入ってなくても負けてたけどね。
最終スコアの2−5はちょっと不当な気がするが、じゃあ何が妥当かと言えば、2−4。要するに完敗。そこは動きません。でも、大儀見のシュートはよかったよ。


勝戦の日は重慶にいたから、ホテルのテレビで見られると思っていたが、そのホテルはCCTV5が映らないというひどいところだったので、やっぱりスマホで観戦。近視の人間には目の前に持って見られるスマホはそれなりに長所があるけれど、帰国してうちのテレビで見たJリーグは大写しでよかった。大画面にはやはり勝てない。