調査かどうかは知らないが

「一行」(いちぎょう・いっこう)のように、二通りの読み方のできる熟語がある。「気色」もそのひとつで、「きしょく・けしき」というふたつの読みがあり、意味もやや違う。だが、今では「きしょく」は「気色悪い」、「けしき」は「気色ばむ」という慣用句で使われるばかりだろう。
この「気色ばむ」の文例を考えてただちに思い浮かぶのは、わが国の現首相である。国会で不快な質問をされるとすぐ気色ばむよね、あの人。一国の総理大臣として、目をそむけたくなるような幼稚さだ。総理なのにヤジを飛ばすし。誰か注意する人はいないのか。誰からそんなふるまい方を教わったのか。
この人の友人は、トランプとプーチン。いいのか? 歴史に悪名をとどめるであろう人たちだよ。中国首脳とは決して友人になりそうにないのは、いいことか、悪いことか。
北朝鮮に対する硬直した態度にも残念なものがある。ミサイル実験をされるたびに、「断じて容認できない」とコメントするだけ。会見するだけ無駄だ。録画しておいて、その都度再生ボタンを押すことにすればいいだろう。言うだけで、何も打つ手がないのだ。交渉する能力も材料もない。自分の手を自分で縛っているから。アメリカはまだ軍事オプションを持っているが。北朝鮮の今の政体は、早くチャウシェスクルーマニアのように崩壊することが望まれるひどい政権だが、北朝鮮は国連にも加盟し、多くの国と国交を持つ中堅国家である。そのように見、そのように対さなければならない。日本人は世界は日米だと思っている。日米の視点が世界の意見だと思っている。国を誤りかねない僻見だ。
「印象操作」なんだそうだ。森友学園問題、加計学園問題での野党の追及は。自分のところまで手が回ることはない、犯罪立件されることはないと知っているので、そんな主張ができる。たしかに賄賂はとっていないのだろう。だから疑獄にならない。官僚の「忖度」止まりで、背任か何かで担当した官僚が逮捕されることはあっても、首相は無事。だから野党の論難は印象操作。
一方で、加計学園問題で政権に不利な発言をする元事務次官に対しては、文部省で天下りが発覚したとき責任を問われても辞任せず地位に恋々としていたと官房長官が事実に反する発言をしたり、出会い系バーなるものに通っていたことを御用新聞に書かせたり、印象操作以外の何物でもないことをしている。完全なるダブルスタンダード。恥ずかしい、恥ずかしい。
民衆について、民衆をそんなに買いかぶるものじゃない、民衆は人も殺せば強盗もする人々だ、などと言った人がいるが、そのことは、そう言うその人が、ことによれば人殺しもするかもしれず、強盗をするかもしれぬということのみを意味している。どんなに追い詰められても、人を殺したり強盗をしたりすることのできない人はけっこういるのである。
出会い系バーというのがどういうものなのかよく知らない。法に触れる存在なのか、法に触れないぎりぎりの存在なのか。通ったという当人も認めている事実によって逮捕されていないところから見て、合法なのだろうと推測するだけだ。女の子を外に連れ出してホテルかどこかで寝るというのが主な用法らしい。そういう行為をした場合、売春として処罰の対象になるのかも知らない。たぶんなるのだろうが、今までの報道を見るかぎり、そのようなことをしていたとの証言は出ていないようだから、むしろ元次官は、女の子を連れ出しても何もせず、話をして小遣いをやっていただけのようである。事実について私は何も知らない。新事実が現われるのかもしれない。だが、興味深いのは人々のそれに対する態度だ。「出会い系バーに通っていた」というのが「女を買って寝ていた」ことをのみ意味すると考える人たちがいる。圧倒的多数派だろう。その人たちは、もちろん自分がそういうところへ行ったらそうする人たちなわけだ。官房長官や首相を含め。そういう人々は、そんなところ行って女を買わない男がいるということがただちに理解できない。だが、そんな少数派が存在することは、理解もできるし、想像もできる。「貧困女性の調査」などという釈明が額面どおりに受け入れられるとは全然思わないが、彼女たちの話を聞き、いたわることに喜びを見出す男がいてはいけませんか? ドストエフスキーの愛読者には親しい人物像じゃないか? 「出会い系バー通い」から「女郎買い」の結論しか導けない俗物の最俗物たる輩どもの蠢く現代日本にそのような人がいることは、むしろ喜ぶべきことのように思えるのだが。実に卑賎な森友・加計問題の最良の部分はここにあるとさえ思う。