頓知話「テナリ・ラマンと泥棒たち」

むかしむかし、ヴィジャヤナガラ王国に、テナリ・ラマンという有名な知恵者がおりまして、シュリークリシュナ・デーヴァ・ラーヤ王に仕えておりました。
あるとき、知り合いの茶店の亭主がため息をつきながらこう言いました。
「テナリさん、どうもいけない。うちの店は客が来なくてさっぱりだ。旅の人々が通る街道にあるんだが、どうしてもうちの店には入ってくれない。それでもう店をたたもうと思う」
それを聞いてテナリは、
「あんたの店は名前が悪い。「Panch Vani、5つの鐘」という名前にかえて、入り口に6つの鐘をぶらさげておくといいよ」
そう助言されて、半信半疑ではありますけども、ほかによい手立てもないので、テナリの言うとおりにいたしました。
すると次の日、この店の前を通りかかった商人たちの一行がこの妙な看板を目にとめました。
「なんだい、あの店は。「5つの鐘」と言いながら、6つの鐘をぶらさげているじゃないか。ひとつ亭主に注意してやろう。
おいおい、ごめんよ。なんだい、おまえさんのところは。「5つの鐘」なんて名前のくせに、なんだって6つも鐘をぶらさげてるんだい。数もかぞえられないのかい?」
「はあ、これは気がつきませんで、失礼いたしました。さっそく直すことにいたします。
ところで、旅のお方とお見受けしますが、少々お疲れのご様子。こちらで少し休んでいかれてはいかがでしょう」
「そうだねえ。見ればきれいで涼しそうで、なかなかよさそうな店だな。ちょうどここらで休もうと思っていたんだ。そんなら、じゃまするぜ。仲間たちが外にいるから、ここに来るように言っておくれ。飲み物と、それからめしを人数分頼むぜ」
てなことで、来る人来る人、鐘の数を見咎めて、亭主に文句をつけに入っていきます。ひととおり意見したあとはお客になるというあんばいで、もとより店もよく、料理の腕もいいのですから、人さえ来れば繁盛しないはずがございません。
最初のお客が2度目に来たときには、
「なんだい、またここへ来たから寄ったけど、あいかわらず鐘を6つぶらさげてるな」
「はい、この鐘の5つはわたしのもので、6つ目のはむすめのものでございます」
「ははは、おもしろい、気に入った。おいおい、みんなおいで。またこの店で休もう。さあ、入った入った」
テナリ・ラマンのさえた知恵のおかげで、商売繁盛、めでたいことでございます。


さて、このテナリ・ラマンは王様のお気に入りでありましたが、あるとき、王様はテナリの知恵のほどを見るために、ひとつ難題で挑戦してやろうと考えました。捕らえられて牢屋につながれている泥棒を2人召しだして、こう持ちかけました。
「おまえらは名うての泥棒と聞く。テナリ・ラマンの女房の金の首飾りをもってくることができたら、罪をゆるして放免してやろう。どうじゃな、できるかな?」
「へえ、王様。お安い御用でございます。そのくらいのことなら時間もかかりゃしません。あしたの朝には首飾りをもってきてごらんにいれましょう」
ということで、この2人の泥棒が牢屋を出て、日暮れ方テナリの家の外で中のようすをうかがっておりました。
テナリ・ラマンはよく気がつく男、あやしい人影を見逃したりはいたしません。泥棒がねらっているなと気づくと、一計を案じました。大声で女房を呼び出して、外に聞こえるようにこう言いました。
「近頃は都も物騒になって、泥棒があちこちに入っているそうだから、用心せねばならん。大事なものはこの袋に入れろ。そして袋を井戸の中に沈めておこう。そうすれば、まさか泥棒に取られることはあるまいよ」
「そうですね。そうしておけば安心だわ」
こう言いながら、女房と2人で、大きな石小さな石を袋にぎっしりつめこんで、2人でその重い袋をかかえて井戸に投げ入れました。
ドボーン。
「さあ、これでよし。今夜はぐっすり眠れるぞ」
そう言って、家へ入っていきました。
それを見ていた泥棒は大喜び。
「家に入る手間がはぶけたぞ。井戸の水をかきだして、あの袋を取り出そう」
泥棒商売をしているだけあって、身も軽ければ力も強い。するすると井戸に降りては水をくみあげくみあげして、井戸の底の袋が引き上げられるくらいになるまで、水をかいだしていきました。
ちょうどその時分は暑い盛り、日照りが続いて畑の作物が弱っているころでございました。しかしそんなときですから、井戸の水位も下がって、水をくみあげるのに苦労しておりました。テナリはあらかじめ、井戸のまわりから作物のあるところまで溝を掘っておきました。泥棒たちがくみだした水は、その溝をとおって畑の作物をうるおしました。
「やれやれ、えらい力仕事をさせられた。こんな重い袋を引き上げるのも並たいていじゃなかったぞ。だがしかし、これだけ重けりゃ、中のお宝が期待できるってもんだ」
苦労してやっと引き上げた重い袋をほどいて、金銀財宝の山を拝もうとしたら、これはいかに、中から出てくるのは大石小石、石ころだらけではありませんか。
「こりゃどうだ、金銀宝石のかけらもないぞ、入っているのは石ばかり!」
そこへテナリ・ラマンの高らかな声がひびきました。
「ご苦労、ご苦労、泥棒殿。この日照り時にみごとな働き。おかげで畑に水がいきわたって、いいくだものができるよ。ありがたいね」
「や、しまった。テナリの知恵にはかられた!」
泥棒たちはすごすごと王様のもとへ逃げ帰り、また牢屋に入ってしまいました。
王様はテナリを呼び出して、おほめのことばをかけました。
「あっぱれじゃ、テナリ。余がさしむけた泥棒どもに井戸の水から大石小石の袋を引き上げさせたそうじゃな」
「はい、よく見ずに仕事をする泥棒のおかげで、おいしいくだものをこいしい人々にさしあげられることでございます」
「おまえに挑んでみたが、井戸でひどい目を見たよ」