話されなかったスピーチ/日本で考えたこと

<日本で考えたこと/ホシモワ・ユルドゥズ>

子どものころ、ある友だちから日本語を教えている「ノリコ学級」という学校があると聞きました。おもしろそうだと思って、「ノリコ学級」へ行ってみました。学校の門からあるやさしい顔をした日本人のおじいさんが出てきました。そのとき私は初めて外国人を見ました。そのおじいさんは、私たち子どもにもちゃんとあいさつして、丁寧に応対してくださいました。そのとき私は12歳でした。日本という国があることは知っていましたが、その国の人々や文化や歴史については何も知りませんでした。その日から日本について大きな興味が生まれました。その先生は、日本語だけではなく、日本について、日本人の生活や歴史や文化についていろいろ教えてくれました。その先生のおかげで日本と日本人が好きになりました。日本の国をその先生に見ました。
大きくなると、日本へ行きたいという夢も生まれました。いろいろ聞いたり、本で読んだり、「おしん」で見たりした日本を自分の目で見たいと思いました。この夢が去年かないました。神様は日本へ行く機会をくださいました。日本は私が思ったとおり天国のような国でした。日本人はほんとうに気持ちがいいやさしい人でした。
日本人はとても勤勉な人々でした。かれらは自分の仕事を心から愛しています。日本人は世界でいちばん丁寧な人です。無礼な人は少ないです。会社でもデパートでも社員や店員はニコニコ明るい顔で丁寧に応対します。みんな自分の仕事が大好きで、一生懸命働いています。だから日本は発展したのだと思います。
日本で道を歩いていると気持ちがよくなります。道は清潔でとてもきれいですから。日本にいたとき私は町のごみを掃除するボランティアに参加しました。町はあまりごみがなかったです。掃除して見つけたのはビールの瓶とジュースの瓶ぐらいでした。
私が日本人の習慣でとても気に入ったのは、両親が子どもに気を配っていることでした。子どもと友だちのように話し、子どもの意見を聞き、子どものために時間を見つけます。でも残念だったのは、両親がそんなに気を配って育てた子どもが仕事でいそがしくして、老人になった両親のことを忘れてしまいます。老人ホームで暮らす老人もいます。日本に老人ホームがたくさんあることを私は知りませんでした。
私は研究生として茨城県の高萩高校に招待されたので、高校生にいろいろ質問しました。そのひとつは、「夢は何ですか」でした。びっくりしたのは、かれらはいくら考えても答えられませんでした。「夢がありますか」というのは私のお気に入りの質問になりました。日本に2か月いた間に、女子高校生がひとりだけ夢があると言いました。おとなも先生たちもこの質問に答えられませんでした。私の夢はとても多いです。ひとつがかなったら、もうひとつ新しいのが生まれます。友だちも私と同じです。私の考えでは、夢がなかったら、人生の意味がありません。
ある日、日本のお父さんは私たちをシブヤにつれて行きました。ここは若者の町と呼ばれていますが、私はこの町を見てあいた口がふさがらなかったです。建物はとても立派できれいでした。でもあそこで見た若者はすごかったです。そのとき初めてあんな日本人を見ました。みんなすごくけしょうして、かみもへんな色にそめて、服もとてもへんなかんじでした。私はびっくりして、お父さんに「どうしてかれらはこんなかっこうをするのですか」と聞きました。お父さんは、「私もはっきりわからないが、かれらはこれをかっこいいと思っているのだろう」と言いました。日本と聞いたとき思い浮かぶ着物を着た人と全然ちがいます。こんなかっこうをしている若者はいかれぽんちと呼ばれます。日本へ行って3週間たって、やっと着物を着ている日本人を見ました。それはおばあさんでした。
私は日本がとても好きです。日本人がそんなに好きになったわけは、私に初めて日本語を教えてくれた先生です。日本にはこの先生のような人だけが住んでいると思いました。日本語の勉強をつづけて、またいろいろな先生に会いましたが、みんなやさしくてまじめな、仕事が心から好きな人でした。日本へ行く前は、日本にはやさしくてあたまのいい人々だけが住んでいて、どろぼうも悪い人もこの国にはいないと思っていました。そのとき母は、「どの国にもいろいろな人がいますよ。あなたが会った先生たちはやさしかったけど」と言いました。日本について、私の最初の質問は「日本にどろぼうがいますか」でした。日本の家族はそれを聞いて笑いました。日本にいる間、私はやさしい人にしか会いませんでした。日本は私が思ったとおりでした。もちろんよくないところもありました。日本へ行ってそのこともわかりました。どんな発展した国でも、かならず自分の問題がありますね。問題がない社会も国もありません。でも日本はすばらしい国でした。
日本へ行く前、私の夢は日本へ行くことでした。その夢がかなったあとの今の夢は、もう一度日本へ行くことです。そのために一生懸命がんばります。■


日本が大好きな彼女は、帰国した今でも日本は天国のような国だと思っているようだ。それだけに、「夢は何か」という問いに答えられない日本人についてのくだりにはドキリとする。日本に対して好意しかもっていない女の子の無邪気な観察だけに、考えさせられてしまう。どうやら「夢」と「よい生活」はトレードオフの関係にあるらしい。あなたは夢がありますか?