弁論大会より/キャンディと私の子供時代

<キャンディと私の子供時代/イマン・クルチュ>
誰でも夢を持っているでしょう。私の夢は日本へ行くことです。実はこれは私の子供のころの夢でした。日本のアニメを見て、この夢を持ちました。日本へ行って、アニメのキャラクターを見たかったです。夢の中で私はこのキャラクターになっていました。
アニメの中でいちばん好きなのはキャンディでした。私はキャンディににていると思いました。なぜなら私にもそばかすがあります。キャンディのようになりたかったです。カラフルなスカートをはきました。キャンディは赤い長ぐつをはいています。しかし私にはありませんでした。だから赤いくつしたをはきました。いつもキャンディの歌を歌いいました。キャンディの生活は楽しいと思いました。
アニメの中でにばんめに好きなのはキャプテンつばさでした。彼はハンサムで、すばらしいせんしゅです。つばさを愛していました。彼は日本に住んでいます。日本はトルコから遠いですから、行けません。だからつばさは私のほんとうの恋人になれませんでした。残念です。しかし夢の中でつばさはキャンディの恋人でした。私はキャンディとつばさがながさきに住んでいると考えました。夢がありましたが、でももちろん夢はげんじつじゃないと知っていました。
私に日本をしょうかいしたのはキャンディです。キャンディの生まれた国を知りたかったです。子供であっても、ほんとうの日本とアニメの中の日本がちがうことは知っていました。だから日本についてしらべました。本を読んだり、映画を見たりしました。映画の中で日本人はいつもにこにこわらっていました。私は日本人は頭がいい人だと思いました。日本には高い建物があります。その建物はじしんでもくずれませんでした。そのひみつを知りたいと思いました。
読んだ中でいちばんおもしろかったのは日本の文字でした。文字はとてもむずかしいと思いました。まるでえのようでした。外国の人が読めないようにつくられたとくべつな文字のようでした。だから私は日本語を習って、とくべつな人になりたかったです。新しいことを勉強して、日本へぜひ行きたいと思いました。私は日本へ行く夢を持っています。いつか行きます。だから日本語を勉強しています。
私に日本をしょうかいしてくれたキャンディ、ありがとう。


彼女も2年生で、アンカラ弁論大会に出場すべく練習して、テキストの暗記もしていたが、今年は参加希望者が多く(出場20人に対して43人)、作文審査ではねられて、大会には出場できなかった(そういう学生がエルジェス大学だけでも5人いた)。
この作文は3つの点で考えさせられる。

1.彼女はブルガリア出身のトルコ人で、生まれたのはブルガリアだが、家族はトルコに移住して、そこで育った。故郷を去る道を選ばされた少数民族というと、「虐げられた」が枕詞のようについてくる。ジャーナリズムは「苦難」や「危険」が大好きで、それを売り物に成り立っているようなものだが、しかし、ほんとうに銃弾が飛び交っている中でなければ、けっこう余裕はあるのだというとがわかる。弾が飛んでくるときにはもちろん顔はひきつるが、それでも四六時中顔をゆがめているはずはない。マスコミが報道したがる「苦難」を軽やかに飛び越える「キャンディの真実」のほうがずっと大事だ。
2.といっても、移住はそう簡単ではあるまい。つらいこともあったにちがいない。そして弁論大会のような催しでは、「公の正義」にかなう話題のほうが点をとりやすい。それなのにアニメなんて、こういっちゃ悪いが能天気な話題を選ぶのは、戦略としては適当でないが、全面的に肯定したい朗らかさをもっている。「朝日」受けしそうなテーマで出場するより、アニメで散れ。そのほうが百倍も正しい。
3.テーマがすでに子どもっぽいが、文章も子どもっぽく思う人もいるかもしれない。だが、「みんなの日本語」30課を終えた程度で書けるはずの文章といったらこんなもので、ほとんどが既習文型・既習語彙でできている。自分の力で書けるだけのことをすなおに書いているこんな作文が私の好みだ。子どもっぽいと思う人は、あなたの英作文はどんなものか考えてみたらいい。


次の文章は彼女が宿題で書いてきたものだが、トルコ人であるにもかかわらず、ブルガリアを2歳のときに離れているにもかかわらず、ブルガリア民間信仰のいわゆる「吸血鬼」の伝説と重なるところがあるので、興味深く思った。「レノーレ」タイプ(死んだ婚約者が娘を墓に連れてゆく)の説話類型の夢である。


<私の夢/イマン・クルチュ>
今日は私の結婚式があります。ですからとてもうれしいです。すこしまえホテルに来ました。結婚式は8時にはじまります。たくさん人が来ました。私は部屋でけしょうしています。すこしまえウエディングドレスを着ました。きれいな花を持っています。結婚式のじゅんびはおわりました。みらいのおっとが来ました。彼は大きいぼうしをかぶっています。だからかおは見えません。いっしょににわへ行きました。なぜなら結婚式はにわでおこないます。しかしにわにだれもいません。にわはとてもしずかです。プールの水は赤いです。この水は血だと思います。おっとはなにも言いません。彼を見ました。しまった。彼は私のおっとではありません。彼はこわいゆうれいです。彼はうたをうたいます。このうたは私の結婚式のうたじゃありません。私は不安になります。どきどきします。だれかが私のなまえをよんでいます。しかしだれも見えません。ひめいをあげます。「たすけて」といいます。それからだれかが私の手をとりました。この人はゆうれいだと思いました。目をとじました。彼は私を食べると思いました。しかし彼はなにもしませんでした。だから目をあけました。とてもくらいです。なにも見ることができません。だれもいません。わかりました。これはあくむでした。