サハリン消息/「ダ〜チャ」

ユジノでやった極東・東シベリア弁論大会で、「ダーチャ」についてスピーチした学生がいました。この大会の模様は同僚教師がDVDに録画してくれていて、それを編集したものをもらっていました。しかし、支給品のパソコンは型が古く、CDの読み取りはできるが書き込みはできない、ましてやDVDは見られないという代物、講座室にあるデスクトップも右に同じ、というわけで、手元にありながらずっと見られず、ウズベキスタンのフェルガナでやっと見ることができました。
ロシア人の学生に作文させると、「レニン、スタリン」と書きます。強弱アクセントのロシア語では、強勢のかかる音がやや長く発音されるのだが、それを音の長さとして意識していないのですね。強弱でのみ捉える。しかし、音に長短のある高低アクセントの日本人は、それを音の長さで捉え、強い弱いは意識しません。だから日本語では「レーニンスターリン」となる。
「ダーチャ」dacha(週末を過ごす小家屋のある郊外菜園)も同様、最初のaに強勢があります。ロシア人にすれば、「チャ」という発音が自然なのでしょう。だが、この学生はがんばった。ちゃんと長音で発音した。しかし、ひらがなで書くと「ダ〜チャ」というか、努力して延ばしている「〜」の部分が不自然で、節がついているみたい(頭高型のアクセントの、ちょうどアクセントの下がるところだからなんですが)、日本人の耳にも妙に強調したように聞こえますが、ロシア人やウズベク人(彼らも長音ができません)にはもっと滑稽らしく(そりゃそうだろう、もともとロシア語の言葉なんだから)、DVDを見てげらげら笑っていました。けれども。それを見せたのは、ウズベキスタンの弁論大会前でした。日本語の単語の長音は練習してできるようになった学生も、スピーチのテーマでもある町の名コーカンド(原語でQo’qon、ロシア語でKokand)はどうしても「コカンド」と発音してしまうのです。それはまあ、われわれが英語で話すとき、「キョ」でなく、つい「とうきょう」と平板に言ってしまうみたいなもので、事情はよくわかる。だからしょうがないかと思っていたのだが、このDVDを見せると、即座に「コーカンド」と日本式に発音できるようになったのですよ。日本語がきれいに発音できるに決まっている日本人がいくら言っても直らなくても、同じ困難を抱えながら努力して克服したのがありありと見て取れる同輩の様子を見れば、すぐに直る。うむ、かくてこそと思いました。ソ連は一つ、連帯せよ、万国の学習者。「ダ〜チャ」君に感謝です。