ジプシーの昔話と伝説(2)

                34.不実な寡婦


 ずっと遠くの山の上の、ある木の穴に、一羽の烏が女房といっしょに住んでいた。烏は若い女房をとても愛していたが、女房のほうはほとんど気に留めていなかった*)。あるときふたりは鼠を食って、小さな骨で烏の亭主は喉がつまっちまった。一二度カアカア鳴き、翼でまわりを叩いてから、死んでしまった。烏の女房は泣きながら家に飛び帰り、横になった。けれども眠ることはできなかった。今では死んで大きな森の中の地面の上に横たわっている亭主をやっぱり愛していたからだ。そこへ年取った下男が戸口に来て、ガリガリ掻いてこう呼びかけた。「おかみさん、いいかい、お前さんはまだ若くてきれいだ。ひとりで暮らすのはよくないこった。外に烏の旦那がいなさるが、きれいな家を持っていて、女房には死なれてる。お前さんと結婚したがってござる。どう答えなさる?」 若い寡婦は泣いてこう言った。「年寄りかい? 死んだ亭主と同じくらいの年かい?」 すると年取った下男は言った。「そうさな、同じくらいの年格好だ。同じくらい金持ちだが、脚が悪くてびっこをひいてなさる! 最初の女房に右の脚を折られたんでさあ」。そこで女房は叫んだ。「行ってこう言いなさい、あたしは泣きぬれていて、亭主を持ちたくはありませんとね!」 下男は行ってまたすぐもどり、扉を叩いてこう言った。「おかみさん! 外に年寄りだがとても金持ちの烏の旦那が来てて、お前さんと結婚したがってござる。何と答えましょうかい?」 若い寡婦は言った。「行ってこう言いなさい、あのいい亭主を忘れることはできません。あたしはもう亭主は持ちませんとね」。下男が立ち去るや否や、若くきれいな寡婦の戸口の前で、ある烏が歌をうたった。


  木から葉っぱは落ちるもの
  恋人がいれば幸せだ
  恋人のそばにいなければ
  火の燃えるのもないようだ**)


 烏の女房は歌を聞き、年取った下男を呼びよせて尋ねた。「誰が外で歌っているの?」「これまでに見たいちばん美男の若い烏の旦那でさあ。お前さんが好きだとさ!」 そこで若い寡婦は言った。「すぐに行って、入っておいでと言いなさい」。下男は出ていき、すぐに若い烏が入ってきて、抱き合い、キスし、撫で合いはじめた。それから不実な寡婦は下男を呼びよせて、こう言った。「森へ行って死んだ亭主を洗いなさい。あたしは触らないわ、臭いからね、汚れるのはごめんだわ。汚い死体を横にして、藁の上に載せ、墓に放りこみなさい」。下男は泣いてこう言った。「行くともさ! だが死んだ旦那をそんなふうに投げ捨てるのはまったく罪ですぜ」。するといきなり烏の亭主が入ってきたが、女房が何をするか見るために、ただ隠れていただけだったので、みんな聞いていたのだった。女房を若い烏もろとも家から叩き出し、それからは年取った下男とともに、安らかな終わりの日まで満ち足りて幸せに暮らしたとさ。


*)原文では、 ádá uvá kámelas les te kide, kide = この女はしかし彼をまあほどほどに愛していた・・・
**)このよく知られた歌は、原語では次のとおりである。
        Pál o kásht perel paitrin!
        Ei, káshke piráni hin!
        Káshke piráni náñi;
        Adáleske kám náñi!