ジプシーの昔話と伝説(1)

                32.謎掛け男


 昔四人の兄弟が住んでいたが、とても貧しかった。そこで一番上の兄が言った。「俺はもう貧乏はごめんだ! 俺は世間へ出ていく。金持ちになったら、もどってお前たちを引き取りにくる」。貧しい兄は夜も昼も歩いたが、食べ物もなければ、飲み物も持たなかった。果てしもなさそうな大きな森に来たとき、とても疲れてしまっていた。兄は横になり、眠りこんだ。寝ているときに、長く白い髯を生やした小さな男がやってきて叫んだ。「起きろ! お前は貧乏人のくせに、明るい昼間も地面に寝っ転がって眠っとる。怠け者で働くのはいやだとくるか! 起きろ!」 兄は起き上がって言った。「疲れてて、仕事もないんだよ」。小さな年取った男は言った。「わしの家に来い、食べ物と飲み物と金をたっぷり、銀と金をやろう、わしの掛ける謎が何のことだかわかればな」。
 二人が森の中に入っていくと、そこにきれいな大きな家があった。二人は小さな男の住みかに入り、男は大きな鉄の扉を開けて、こう言った。「見ろ、このどっさりの金銀はお前のものだ、もしこの謎が何のことだか当てられればな! いいか!


  木がひとつ、糸がよっつ、
  棒がひとつ、毛がたくさん、
  踊りに呼ぶよ
  恋人たちを!*)


さあ、それは何だ?」 兄は答えた。「俺には何だかわからない」。「よかろう!」と小さな年寄りは言った。「わからんというなら教えてやろう。バイオリンだ! さあ、お前はここに残ってわしの下男になるのだ」。
 哀れな下男は今やみっちり働かなくてはならなかった。小さな年寄りは毎日背中が青や緑になるほど殴りつけた。小さくはあったが、とても力が強かったんでね。――
 家に残った兄弟には、一番目の兄がどこにいるのかとんと知れず、それであるとき二番目の兄が言った。「兄貴はもどってこない。今度は俺が出ていく、金持ちになったなら、お前たちを引き取りに来るからな」。二番目の兄もまたどんどん歩いていき、大きな森のところに来て、横になった。眠っていると、あの小さな年取った男がやってきて、男を起こして、大きな声でこう言った。「起きろ! お前は貧乏人のくせに、働いとらん。いっしょに来い、食べ物と飲み物と金をたっぷり、銀と金をやろう、わしの掛ける謎が何のことだか答えればな」。二人は年寄りのきれいな家に行き、年寄りは鉄の扉を開けて、こう言った。「見ろ、このどっさりの金銀はお前のものだ、もしこの謎が何のことだか当てられればな! いいか!


  犬は脚なし舌もなし、
  けれども膝に抱き上げりゃ、
  ひどく吠え叫んで鳴くことよ、
  下ろせばぐずぐず言いはせん**)


それは何だ? わかるかな?」「わからない」と二番目の兄は言った。「俺はそんなに賢くない」。すると年寄りは言った。「お前がそんなに馬鹿でわからんというのなら、教えてやろう。それは鎖だ。さあ、お前はここに残って、わしの下男になるのだ」。哀れな兄弟二人は小さな年寄りのもとで、とても不幸せな目にあっていた。――
 二人の下の兄弟には、上の兄二人がどこに暮らしているのかとんと知れず、それであるとき三番目の兄が言った。「弟よ、兄貴たちは俺たちのことを忘れちまったらしい。俺は世間に出る。金持ちになったら、お前を引き取りに帰ってくるからな」。三番目の兄も出ていき、大きな森のところに来て、そこに疲れて横になった。眠っていると、あの小さな年寄りがやってきて、男を起こしてこう叫んだ。「起きろ、ちび助! お前は貧乏人のくせに、働くかわりに明るい昼間に眠ってくさる! 起きていっしょに来い、食べ物と飲み物と金をたっぷり、銀と金をやろう、わしの掛ける謎が何のことだか答えればな」。二人は年寄りの大きくきれいな家に入り、年寄りは鉄の扉を開けて、こう言った。見ろ、このどっさりの金銀をすべてお前にやる、もしこの謎が何のことだか当てられたらな! いいか!


  二つの山の間で臭い犬が吠えている、
  大きな声で、暗い暗い森の奥で!***)


さあ、それは何だ?」「わからない」と三番目の兄は答えた。「あんまり勉強しなかったんで、あんたほど賢くはないんだよ。あんたは年を取っているが、俺はまだ若くて、知ってることも多くないよ」。「よかろう!」と年寄りは言った。「わからんなら教えてやろう。それは屁だ!」 すると三番目の兄は笑ったが、小さな年寄りは言った。「笑うんじゃない、泣くことになるんだ! お前は今からわしの下男だ。そして哀れな三番目の兄は、二人の上の兄とともに、小さな年寄りの下男となり、年寄りはきつい仕事を命じては、毎日背中が青や緑になるほど殴りつけた。――
 それで四番目の兄弟、一番下の弟は考えた。兄貴たちはみな行ってしまった。俺も世間に出てみよう、兄貴たちはもどってこないんだから。俺のことはとっくに忘れてしまったんだろう。――弟には犬が三匹あり、それは熊と狼と狐だった。弟はそいつらをとても可愛がり、そいつらも弟がとても好きで、いっしょに世間へ出ていった。森にやってきて、弟は言った。「お前たち、何か食うものを捜しに行きな。口笛を吹いたら、すぐにもどってくるんだぞ!」 獣たちは行ってしまい、弟は横になって眠った。すると小さなあの年寄りがやってきて、弟を起こし、大声で言った。「やいちび助、起きて働け!」 弟は起き上がって言った。「何がしたいんだ?」「来い」と年寄りは言った。「食べ物と飲み物と金をたっぷり、銀と金をやろう、わしの掛ける謎が何か答えればな」。二人は年寄りの大きくきれいな家に行き、年寄りは鉄の扉を開けて、こう言った。「このどっさりの金銀をお前にやる、もしこの謎が何のことだか当てられればな」。


  灰色の果てなく長い細布が
  国中かけて広げてあるぞ!****)


それは何だ?」 若者は言った。「それは国の道さ」。「よかろう!」と年寄りは答えた。「お前はわしのところで奉公している兄どもより賢いな。わしには賢い下男も要る、わしの下男になるんだ!」「おや、そいつはまっぴらだ!」と弟は言った。「あんたの銀と金をよこせ!」 年寄りは知らんぷりで、弟を殴りつけはじめた。そこで四番目の弟は口笛を吹き、すると熊と狼と狐がやってきて、小さな年寄りをズタズタに引き裂いた。四人の兄弟は銀と金をたくさんつかみ取り、そうして金持ちになったとさ。


*)原文は、   Yeka kástori, stár shelóro,
         Yek ciloro, but balóro,
         Piráná vicinen
         Kiyá e kelyiben.
 正書法については、c = z, s = s, sh = sch, ñ = nj, y = j, ç = ch, j = dsch(ド イツ語の発音で)となる。私の「トランシルヴァニア・ジプシーの言語」(ライプチヒ、ヴィルヘルム・フリードリヒ書店)p.3参照。
**)原文は、  Biçerengro, bicibákro jinkel,
         Káná opre les lável:
         Becinel te vicinel
         Bashlyot te ná penel!
***)原文:  Máshkár duy resá kándeno jiukel,
         pále sárále themlin becinel!
****)原文: Metyálo, dindyárde poçtán
         pál e pçuv çárpinan.


ハインリヒ・フォン・ヴリスロツキ編「トランシルヴァニア・ジプシーの昔話と伝説」(1886)より