中国覚え帳/ためこまず、あたたかい

中国人は日本人とだいぶ違うだろうと思っていた。大陸の民であるし、歴史も違うし。ところが住んでみると、実は非常によく似ていることに気がついた。
しかし、まったく違う点ももちろんある。たとえば次のような。
中国人と日本人を比べると、中国人のほうがきれいだ。美醜の意味ではない。中国人の顔のほうがすっきりしている。日本人は汚い。なぜか。それはきっと、中国人が言いたいことを大声で言っているからだ。日本人は言いたいことをいつも我慢している。それがたまって、顔が汚くなる。中国人はすっきりと便通がいい。あの大声には驚く。見知らぬ相手とも平気で、日本なら喧嘩口論レベルの声でワアワアやっている。ためこまなくて、健康にはいいだろう。
アメリカ人の同僚教師が、中国の子供は世界でいちばんかわいいと言っていたが、私もそれに同意する。実にかわいい。なんでこれがああなってしまうのかという問題はさておき、かわいさの点にだけ話を絞れば、その理由は股割れズボンにあると確信している。尻の部分が縫われていないズボンで、中国の幼児はこれをはき、便意を催したら大でも小でもあたり嫌わず排泄させている。犬猫並みである。汚れた気持ち悪いものを体にはりつかせていないから、中国の子供はあんなにかわいいのだと思う。中国の生活スタイルが変わり、股割れズボンが消えおむつが普及してのちにも、彼らが変わらずこんなにかわいければ、そのときはつつしんで意見を撤回させていただくが。
それから、広場舞。中高年女性、つまりおばさんおばあさんが集団で広場で群舞する。その音楽の音量は、中国基準なら問題ないが、日本基準なら行き交う人の注目を一身に集めるレベル。昔は太極拳をやっていたはずだが、「近代化」が進んでこんな形態になったのだろう。若い連中はさらに「現代化」しているので、彼らからは笑われる存在だが、今のところ広場の主役で、社交ダンスをやっていたりもするから、実に近代だ。健康にはいいし、社交性も、斉舞であるから同調性も高くて、けっこうなことではある。老人の太極拳ならほほえましくて、中高年女性の群舞なら目を瞠るのは差別でしょう。だがまあやっぱり異様で、インドの道を歩く牛にはすぐ慣れた私も、これにはまだ慣れきっていない。異様さを感じてしまう理由はやはり、「傍若無人」がキーワードだろうな。
こんなものは日本にない、と思っていたが、よく考えるとそうでもない。歳が高めの女性らが嬉々として群舞するのは、日本でもあるんじゃないか。主婦たちのフラダンスなんかときどき聞くし、バンガロールでは駐在員夫人連が踊るボリウッドダンスが名物だった。中年女性が群舞したがるのは共通で、ただ日本ではそれが個別的で、しかるべき練習を密室で積んだのちに晴れ舞台にあがるというプロセスの違いもある。してみれば、カジュアルさという点で中国のおばさんたちに軍配は上がる。それに、ラジオ体操というやつがあるじゃないか。集団で公共の場所で行なわれる一斉運動という点で、まさに等質だ。それならば、広場舞は中国と日本の違いとはならないかもしれない。パリのルーブル前やモスクワの赤の広場まで押しかけて踊らなくてもいいと思うが。「中国脅威論」の輸出になっちゃうよ。
あと、日本人が冷たいものを好むのに対して(日本人にぬるいビールを出すのはほとんど犯罪だ)、断固として温かいものばかり飲む点も違いだ。オレンジジュースまで温かかったのには驚いた。さすがにビールは常温なだけで温めはしないが、いや、中国人ならこれだって温めるんじゃないかともどこかで思っている。温かいビールが出てきても泰然としていられるだけの心の備えはできている。