コンフェデ杯雑感

今回のコンフェデレーションカップでは、前半途中で睡魔に負けてしまった3位決定戦以外は全部見ることができた。準決勝の2試合など、見ごたえのある試合がいくつもあったけれど、いちばんおもしろかったのはタヒチかもしれない。
タヒチと日本以外は強豪だった。ともに3戦全敗だったわけで。1次リーグ敗退のあとの2か国、メキシコ、ナイジェリアと日本との間の力の差より、日本とタヒチの力の差のほうがはるかに大きいにしろ、全敗は全敗だ。
だが、弱小タヒチに場違いな感じはなかった。スコアには「場違い感」がありありと残ったが(高校野球県予選のコールドゲームのスコアだ。グループ分けが決まった時点で、タヒチの入ったグループから大会得点王が出ることは自明だった。それでもタヒチから固め取りしたトーレスと同じだけ点を取ったフレッジが真の得点王だ)、パフォーマンスはそうでもなかった。強豪相手に守りを固めず、打ち合いを挑んだ。ワールドチャンピオンのスペイン相手に、15点取られても1点取りたいというのはあっぱれな言い草だ(失点が5つ少なかったために、1点も取れなかったけど)。それは正しい。守りを固めればスペインでさえ無得点に抑えられるスイスならともかく、タヒチ専守防衛をしたところで、勝敗は動かせない上に、ショボい、情けない試合になるのは目に見えている。
このタヒチチームは、ブラジルの観客から大きな声援を受けていた。相手のスペインが魅力的なサッカーをしているのに。
イタリア戦では日本にも大きな声援があった。それは、日本がいいサッカーをしているから? たしかに、ドイツでのコンフェデ杯でも声援を受けていたし、サッカー大国の目の肥えた観衆は、第三国同士の対戦ではいいサッカーをするほうを応援する傾向はあるのだろう。メキシコがいい攻撃をしているときはメキシコにも声援があったから。だけどタヒチのは、「けなげなサッカー」ではあっても、いいサッカーというわけではない。
イタリアが一次リーグ突破を争う敵、スペインが決勝でぶつかりそうな(実際ぶつかった)敵だから? ウルグアイは恒常的な敵だし。「敵の敵」は応援したくなるかもしれない。
攻めの姿勢を見せる弱小チームへの判官びいき
たぶんそのどれもが少しずつ入っている。
かつ、同時刻キックオフの他会場のブラジルが得点したとき、目の前の試合に関係なく最大の歓声があがる。あ、そういうことね。とてもわかりやすい。
日本は「強いタヒチ」である、ということがわかった。両者に共通するのは、汚い、こすいプレーがない。いさぎよい。一生懸命である。つまり、ポジティブだ。加うるに、弱い。最後の項目が「強い」でありさえすれば、どれもすばらしい特性なんだけども。
だから、声援を受けても喜べないファンも選手もいるだろう。その声援に「少年サッカーを眺める大人の目」を感じるからだ。だが、強さと引き換えにそれらの美点を失っていいわけではない。美点は美点で保持しつつ、強くなってほしい。強さとそれらの長所がバーターの関係なら、あえて強くならなくてもいい、ぐらいの矜持を高く持ちつつ、でもやっぱり強くなろうよ。


今大会も、わが日本代表は既視感にあふれていた。点を取られてはいけないところで取られるのが日本サッカーの最大の特徴である。ブラジル戦前半開始直後、後半開始直後、終了間際。イタリア戦も前半終了間際、後半開始直後に2連続失点で逆転、終了間際。むろん、それは「魔の時間帯」である。あのスペインもブラジル相手に前半開始直後、終了間際、後半開始直後と、日本と同じ3失点を喫したわけで。だが、日本の場合ほとんど「お家芸」だからね。こんな失点のために何度切歯扼腕したことか。日韓W杯トルコ戦、五輪イタリア戦、ドイツW杯のブラジル戦、いくらでもあるぞ。「えい、学習能力のない!」と何度叫ばされたか。
Jリーグの特徴は、ロスタイムの得点(失点)である。外国人監督にとってJリーグは心臓に悪いと思う。日本人選手は彼らの国の選手なら絶対に許さない失点をしてしまうから、笛を聞くまで安心できない。逆に得点の側だとしても、突然の興奮は体に悪いよ。
しかしながら、ロンドン五輪代表の親善試合オーストラリア戦では、「お家芸」の開始早々の失点から、前半はメロメロで、いつ2点目が入ってもおかしくなかったが、前半終了間際に1点返し、後半に逆転して勝利。特に、相手がミスしたボールをかっさらって得点した永井のゴールには目を見張った。これは日本がいつもやられているパターンではないか。あれを見て以来、このチームはけっこうやるのではないかと思っていた。
女子代表のW杯?五輪?の初戦のニュージーランド戦でも「お家芸」は見られ、2点を取られたが、2点返して引き分けに持ち込んだ。実力差から見て勝たなければいけない試合ではあったものの、2点差を追いついたところに力強さを感じた。そのままずるずる、というのを何度も見ていたからね。
コンフェデ杯の最中にも女子のニュージーランド戦があったが、退場者が出たら、シュートすら打てないのに驚いた。うまくもないし、強くもない。ほんとに世界チャンピオンかい。宮間がふさわしくない合わせ一本のレッドカードで退場したが、異議を唱えずピッチを去った。あれでカードが出るのは不当だが、レベルの低い審判にそう裁かれてしまう可能性のあるプレーではあった。自分に対して高い要求をしている選手だというのがわかった。)
ブラジル−日本戦だけでなく、驚いたことに、大きな実力差があるとは思われないイタリア−メキシコ戦、スペイン−ウルグアイ戦も一方的な展開だった。3戦とも、スコアは2−0が妥当だった。しかし日本はロスタイムに失点して0−3、ウルグアイやメキシコのようなたくましいチームは、手のほどこしようのない試合でも何とか1点もぎとって、スコアをゲーム内容を反映しない1−2とした(日本の0−3はしかしながら妥当である。そのナイーブさが手ひどく罰せられた)。


今回の大会は、ネイマールのための大会だった。ネイマールは日本に感謝していい。彼を調子づかせる最初の得点を大会の開始3分で献上したし。たぶんあれが今大会のベストゴールだ。トヨタカップ(あ、クラブW杯か)の柏戦のすばらしいゴールといい、日本とは相性がいいのか。ブラジルも、世界も、日本に感謝していい。最高の状態の美しいネイマールを初戦から最終戦まで見られたのだから。とまあ、これくらいしかコメントしようがないブラジル戦であった。
そして、イタリア戦。あれを「大健闘」と言わなければならないのが悔しい。ブラジル−イタリア戦は、ブラジルが4点取って、イタリアが2点取った。あるいは、ブラジルが4点取って、2点取られた。日本−イタリア戦は、日本が3点取って、4点取られたのではない。3点取って、4点取らせたのだ(厳密には、2点は「取られた」が、2点は「取らせた」)。イタリアがすばらしいから4点取ったのではない、日本がひどいから4点取れたのだ。
それにしても、サッカーというのはわからない。日本相手に「負け試合」をしたイタリアが、スペイン相手にひょっとしたら勝つんじゃないかと思わせる試合をするし(PK戦だから結果はサイコロのひと振りみたいなものだ)、同じくスペイン、誰疑うことのない世界チャンピオンのスペインが、ブラジルに日本と同じ0−3で敗れるし(ゲーム内容は、2−3か3−3もありえた彼と0−3以外の何物でもない此では雲泥の差だけど、失点経過は日本と瓜二つと言っていい)。このわからなさ加減でのめりこまされてしまう。恋愛と同じだね。
日本のいやなところは、セレモニー癖だ。何でもあらかじめ根回し済み、振り付け済みのセレモニーにしてしまう。それに参加する全員が共犯者となる。インタビューもそうで、選手は前もって準備したがごとき発言しかしない。考え考え、ことばを選びながら当たり障りのないことを言い、相手が言ってほしいことしか言わない。だが、イタリア戦後の香川や本田のインタビューでは、悔しさ100パーセントのコメントが自然に口から流れ出ていた。試合結果は愛せないが、そのコメントの自発性は愛する。
メキシコ戦も妥当な結果であったが、惜しいと言えば惜しい。オフサイドでない前半の岡崎の得点が認められず、オフサイドだった後半の岡崎のゴールが認められた。それで帳尻は合っているかもしれないが、先制点と終了間際にやっとこさ返した点では重みが違う。そしてこの試合でもロスタイムにPKを与えるというナイーブさを遺憾なく発揮した(そのPKはキーパーが止めたが)。
最終決算は、ブラジル戦は論外、イタリア戦はほめてもいいが、メキシコ戦はほめられない。後二者相殺で論外だけが残った。


しかし、これでいいかもしれない。ウルグアイの試合を見るのは好きだが、日本代表がウルグアイになってほしいとは思わない。あれが自分の国の代表だと思ったら、ちょっといやだ。スアレスは好きで、見ていて楽しいが(サッカーのワールドカップでバレーボールをやっていたな)、スアレスとともに天国へ行くより、ゴン中山や岡崎とともに地獄へ行くほうを選ぶだろう。彼らには何度も地団駄踏まされたが、しかしながら彼らこそがわれらの代表なのである(それにしても、ハーフナーは血はオランダ人なのに、どうしてああも「日本人フォワード」なんだろう。「日本人フォワード」とは得点を決めない人のことで、「オランダ人フォワード」は得点を決める人たちなのだが。そして日本代表や代表予備軍に多い混血選手たち。彼らを日本代表に押し上げるほどには片親の遺伝子は強いのだが、勝負強さ、というか弱さのほうでは、日本人の遺伝子が決定的になる。あの島国には人をそうさせる何かがあるのか)。
だから、愚かでナイーブな日本は、それほどきらいではないかもしれない。だが、この悔しさをどこへもっていこう。ああ、日本代表を応援するのはつらいことだなあ。