正体不明の人びと

京大には正体不明の人たちがいる。桑原武夫今西錦司梅棹忠夫。3人とも第一級の学者とされており、それぞれ人文科学研究所・霊長類研究所・民族学博物館を作った。全集著作集も出ているのだが、ではこの人たちの主著は何かとなると、はたと考え込む。
桑原武夫は「第二芸術論」が有名だけども、まさかあれが主著ではありえないし。「今西進化論」という言葉はよく聞くけれど、門外漢にはそれについて何を読めばいいのかすらわからない。梅棹忠夫では「文明の生態史観」が知られているが、あれは実質的には一論文だ。にもかかわらず、彼らが衆を抜いていることは疑いえない。不思議である。
星雲の中心であり、何かをした結果ではなく何かをする運動体として学問の創造的契機であること。すぐれた発想に満ち、人をインスパイアするのがその業績の主たるものであるのだろう。
東大からはたぶんあんな人たちは出ない。京大のひとつの精髄なのだろう。東京の人々が「京都には魔物が棲む」などと言うのは、彼らのことを指しているのかもしれない。