癖字補遺

前にくせ字について書いたが、あれをもってトルコの学生ロシアの学生がみんなひどい字を書いていると思われては困る。多くの学生にあんなくせ字があるのは事実だけれど、くせのないきれいな字を書く学生も少なからずいることを言っておかなければ、人を誤ることになる。
私は悪筆というほどではない(と思う)が、きれいな字ではない。中の下というところか。そんな私よりうまい字を書く学生はクラスに必ず何人かいるし、1年生で、ひらがなカタカナ習い終えたばかりでもう、こりゃおれよりうまいなと感心してしまう学生もいる。習字の指導をすればいい効果があるはずだと思いながらできないのは、そういう理由からだ。恥ずかしいのだ。
学生の中には、字が下手ではなくて、たしかにうまいのだけど、一風変わった字(特に漢字)を書く学生が数人いる。ある日ふと気づいたのだが、彼らの書いているこの字、これは隷書体じゃないか?
そう思って見ると、なるほど隷書に似ている。楷書体を教えているのに、隷書になる。いったいどこからこんな書体が出てくるのか。教科書の印刷文字の明朝体と教師の手書きする文字しか目にしていないはずなのに。断言してもいいが、隷書体など見たこともないはずだ。
個人的な癖にしては、複数いる。だから個人的とばかりは言えない。一定の少数においてかもしれないが、ある傾向がそこにはあると思われる。
むちゃくちゃな書き順書き方を直すために、板書は行書でやってみるのも手だろうと思っていた。解読し模倣するうちに自然によい書き方が身につくだろうと(書道の心得のない自分には無理だけれども)。だが、隷書ですよ。漢代ですよ。
ひょっとしたら、楷書より隷書のほうがトルコ人(あるいは外国人一般?)に合っているのだろうか? いっそ楷書でなく隷書を教えてみたら? 誰か実験してみてくれないだろうか。でもって、漢字の習得が早まったり、妙な書き方がなくなったりするような肯定的な成果が得られたりして? ―― そんなことはあるまいと思うが、一考の値打ちはありそうに思える。