イェニーの恋(2)

4.
 ようやく貴嬢に、われわれの昔話集へのご助力に対してお礼を申し上げられることとなりました。ご手稿は、大きな喜びとともに、まさに時を得て到着しました。自分の手で本が送れる時まで謝辞を控えていましたが、今やっとそれを果たすことができます。第一巻もいっしょにお送りします。こちらの収集はもっと骨折りでした。これがお気に召して、貴嬢の努力や同情がいくらか報われているとお認めいただけることを願っています。われわれの著作のうちでも、この本は私にとってもっとも好ましいもののひとつです。あんなにも快い思い出がそれに結びついているのですから。字句のうちにその痕跡も残っているように思います。そのほかに風変わりな思い出もあって、たとえば、部屋でいくつかを書いているとき、そばで数日客に迎えていた7、8人のロシアの狙撃兵たちが歌っていました。そのうちのひとつ、第21番「からすたち」は、アウグストがホルシュタインから送ってくれたもので、その地で夜歩哨に立っている間、僚友が語ってくれましたが、その兵士は翌日銃弾をうけ戦死したのです。この話を見るたびに、ある感動にとらわれます。私が知らず、向こうでも私について聞いたこともない誰かが、死の直前に話を寄せてくれたのです。
 妙なといえば、今ウィーンへ行っている兄(*)が、第三巻のためにハンガリーのドイツ人やモラヴィアから話を送ってもらう約束を得たというのもそうです。実現すれば、きっとまったく独特な話が現われ出てくることでしょう。けれども貴嬢にはさらなるご支援を心からお願いしたく思っています。昔話でも、山や森や古城など特別な場所をめぐる伝説でも。このようなものも集めていますが、貴嬢のものよりすぐれたものは望めないのです。
 どうぞ奥様とネッテ嬢にくれぐれもよろしく言伝て下さい。そしてこれからもあたたかい思い出を与えて下さいますよう。
 W.C.グリム
  カッセル、1815年2月5日


*:ヤーコプ・グリム(1785-1863)、いわゆる「グリム兄弟」の兄で、弟がヴィルヘルム(1786-1859)


5.
 いくつか昔話をお送りいたします。オランダ地方由来の荒々しい狩人の話をのぞいて、すべてこのあたりの話です。じきにもっとずっと多くのすばらしいお話が集まりそうで、そしたらできるだけ早くお送りします。すばらしい昔話の数々に、心からお礼申します。ずいぶん遅れて届きましたの、長くベーケンドルフに置かれたままになっていたのです。でも、もう大喜びで、全部の話をすみずみまで、上から下まで読んでしまいました。うれしいことに、数日前に思いがけずアウグストがここにやって来てくれました。今日もう出発してしまうのですけれど、この包みの手配を約束してくれました。おかげさまで、両親も兄弟も元気で、貴方によろしくと申しております。
 イェニー・ドロステ=ヒュルスホフ
  ヒュルスホフ、1815年6月6日